パンデミックによって、日本のデジタル化の遅れが露呈した。さらに、多くの組織でDXの推進が取り沙汰されながらもなかなか進んでいないというのが現状だ。そのような状況下、組織が進化するためには今、何が必要か? 世界で200万部を超えるベストセラーであり、企業、学校、コミュニティなど、数多くの組織のリーダーや組織変革の担当者に今も読まれ続けている名著『学習する組織』の著者、ピーター・センゲ氏へのインタビューを全6回でお届けする。最終回となる今回は、第一人者であるセンゲ氏自らが「システム思考」の重要性を解説。「システム思考は、因果ループ図や氷山モデルなどの典型的な思考ツールをはるかに超える」と語る理由は? そして、人間がテクノロジーや技術をよりよく使えるようになるためにはどうすべきか?(聞き手/福谷彰鴻、翻訳・構成・文/奥田由意、長谷川幸光、宮外真理子、協力/中川生馬)
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「システム」とは何か?
私たちもまた「生命システム」である
――最後の質問です。「学習する組織」の根幹に「システム思考」という概念があります。なぜこの概念が重要なのでしょうか?
『学習する組織』著者/MIT経営大学院上級講師/SoL(組織学習協会)創設者。MIT(マサチューセッツ工科大学)スローンビジネススクールの博士課程を修了、同校教授を経て現職。旧来の階層的なマネジメント・パラダイムの限界を指摘し、自律的で柔軟に変化し続ける「学習する組織」の理論を提唱。20世紀のビジネス観にもっとも大きな影響を与えた1人と評される。その活動は理論構築のみにとどまらず、ビジネス・教育・医療・政府の世界中のリーダーたちとさまざまな分野で協働し、学習コミュニティづくりを通じて組織・社会の課題解決に取り組んでいる。著書に『学習する組織』『学習する学校』(ともに英治出版)、共著に『21世紀の教育』(ダイヤモンド社)など。
Photo Courtesy of Peter Michael Senge
ピーター・センゲ(以下、略) 「システム」――。ここ5年ぐらいの研究の成果で、さまざまな「システム」同士のつながりの経緯が、より深く理解できるようになりました。
人類の歴史を見れば、人はエンジニアリング、つまり「物理工学システム」の知見で、ものをつくってきました。私は、エンジニアとしての教育を受けてきました。その教育は、西洋科学が過去数百年、蓄積してきた、物理工学システムの産物です。
一方、人自身は、それ以前に「生命システム」であり、社会的な生物です。社会的になるように教育されたからではなく、進化が私たちを社会的な存在にしてきた。現に今動いているシステムである、生物学や生態学といった「生命システム」は、「物理工学システム」とは別ものです。
「生命システム」を理解することで、より本来的な人間の感覚を呼び覚ますことができます。この事実を、いろいろなことに応用したり、適用して考えたりすることができるはずです。
ここ5年ぐらいの研究の成果で、さまざまな「システム」同士のつながりの経緯が、より深く理解できるようになりました。
今日、自然界は私たちにこう問いかけています。
「人間は本当に自然界の一部でありたいと思っているのか? それとも、人間が自然界を支配していると考えているのか?」
もし人間の答えが、「自然界を支配している」であれば、私たちの種はそう長続きはしないでしょう。多くの種は長続きしないものです。数十万年という時間は、地球のような惑星における生命の歴史から見れば、取るに足りないものですからね。
もし私たちが長続きする種になりたいのであれば、その質問にどう答えるかを知っておくべきです。「いいえ、私たち人間は、生命の共同体の一部として、自分たちなりに自然界に貢献するために存在しているのです」と。
――自分たちなりの自然界への貢献の仕方とは、どういったものが考えられるのでしょうか?
私たち人間という種が、自然界にどのように貢献するのか? それは、人間の「進化」に関わる大きな問題です。