後見の手続きを進める前に
「必読」の1冊がある

 銀行員の言ったことに間違いも悪意もない。「後見人に家族を推薦できる」というのも本当だ。しかし家庭裁判所は、特に本人の銀行預金残高が大きい場合、職業後見人を選任する場合が多い。

 銀行取引や不動産取引、施設への入所などの際に、「後見人が必要だ」と言われて不用意に手続きを進めてしまうと、大変なことになる場合があるのだ。

「後見」の手続きを進める前に、ぜひ本を1冊読んでほしい。宮内康二著『成年後見制度の落とし穴』(青志社)だ。著者の宮内氏は、一般社団法人・後見の杜(こうけんのもり)の代表で、成年後見の制度と事例に詳しい。また、かつて東京大学でジェロントロジー(「老年学」と訳される)の教鞭を執っておられた。

 同書によると、成年後見制度がスタートした2000年には親族が後見人に選ばれるケースが約9割と圧倒的に多かった。一方、12年には弁護士等の職業後見人が選ばれるケースが逆転し、20年には職業後見人が付くケースが8割を占めるに至っているという。

資産8.4兆円に対して費用848億円
毎年1%ずつ財産が減る制度

 前掲書の推計によると、21年12月末時点でざっと8兆4000億円の資産が成年後見制度(後見、補佐、補助、任意後見)の利用下にある。そして、約848億円の費用(後見人、監督人の報酬)が支払われているという。

 判断能力が低下した本人の財産を管理し、年に一度財産目録を家庭裁判所に提出する程度の仕事に対する報酬としては不当に高いように思われる。

 また、この本の事例を見ると、本人のためにも家族のためにもなっていないケースが多々載っている。例えば後見人によって不動産が売却され、本人が施設に入れられて、本人と家族が会うことを妨害されるなどといったケースが挙げられる。読んでいるうちに、怒りで背中が熱くなるような話が全国あちこちで生じているのだ。

 後見人を務める全ての弁護士や司法書士が悪いわけではあるまいが、経済的な利害が存在して、後見という制度に独特な権限が絡むと、驚くような悪事が発生する場合があるのだ。制度の失敗事例として興味深い。