山崎家の場合、任意後見契約と
財産管理等委任契約の組み合わせ

 何をどうしたらいいのかを具体的な事例で説明しよう。北海道札幌市にある筆者の実家で、5年ほど前に行ったあれこれをご説明する。

 約6年前、筆者の父が90歳を目前に他界した時、父が主に母(当時81歳)のために遺した金融資産がいくばくかあった。相続人は、母の他に、筆者と筆者の妹(筆者の11歳下である)がいたが、子ども2人は相続を放棄し、母が全額を相続した。この手続きは簡単だった。

 当時元気で長命が予想され、消費意欲の旺盛な母だったが、彼女の生活費が足りなくなることはなさそうで、子どもたちには大した金額が残りそうにない絶妙な加減の遺産だった。

 母の銀行口座にもある程度の残高があり、その他に証券会社で個人向け国債(変動金利型10年満期)を少々持っていた。そこに、父の銀行預金と証券口座の有価証券が加わった。

 必要な作業は、将来母の心身が衰える可能性に対処する契約を作ることと、母の下に集約された金融資産の状態を整理することだった。当時の母は、まだゴルフを続けているくらい大いに元気だったのだが、あれこれの手続きは、このタイミングが良かったとつくづく思う。

 妹と母は、二つの契約を結んだ。一つは、金融機関との取引を母が妹に委任する「財産管理等委任契約」、もう一つは、将来必要な状態になった場合に妹が母の後見人になる「任意後見契約」だ。これらを合体した契約書を、妹が母と共に札幌の公証役場に行って締結してきた。

 契約書のドラフトは、ネット上にあるサンプルを検索するなどして、筆者と妹とで作り、ほぼその文面で締結した。

任意後見契約のために必要なのは
「合計4万円」

 ただし、1回目の際には、公証人さんが「任意後見契約」の部分を無視して、「財産管理等委任契約」だけだと即断したのでうまくいかなかった。妹には、もう一度公証役場に行ってもらった。公証人さんがこの種の契約に慣れているかどうかが影響する場合があるのかもしれない。

 費用は数万円としか記憶がないが、宮内氏の前掲書には、任意後見契約のために掛かるのは合計4万円だとある。公証人に払う費用と、契約内容を法務局に登記する費用の二つの合計額だ。

 後見を引き受ける人を追加する場合は、1人当たり1万1000円増えるという。山崎家の場合は、筆者よりも妹が大幅に若く、女性の方が寿命が長い傾向もある。そのため、母の金融取引の代理人と、必要が生じた場合の後見人は妹にすることとした。