しかし、私が受けたサポートのような顧客体験を提供し続けていれば、顧客には悪感情を抱かれるようになっていくことでしょう。

 電力会社のような企業は民間企業ではありますが、半分「官」に近い立場として社会インフラを提供しています。このため、顧客サービスという視点が欠けてしまいがちなのは、ある程度やむを得ないと思うところもあります。

 ただし今は、電力自由化によって東京ガスが電力サービスを提供したり、逆に東京電力がガスサービスを提供したりするようになっています。通常の企業と同様、あるサービスを入り口にして別のサービスも一緒に使ってもらう、いわゆるクロスセルのようなアプローチも始まっています。そうなると、こうしたCXの考え方は非常に重要になっていきます。

 電力サービスひとつとっても、料金の支払いや問い合わせなど、開設から解約までの間にはさまざまな顧客との「タッチポイント」(接点)があります。本当は、その全てのタッチポイントで顧客の体験を良くすることを考えなければならないわけです。

効率化・省力化・コスト削減のツケを
顧客に押しつけていないか

 IVRやウェブサイトでのサポートを見る限り、電力会社や宅配業者の考え方はあくまでも彼ら自身の効率化や省力化、コスト削減の方向に向いていて、その負担を顧客側へ一方的に押しつける状態となっています。顧客から見れば、そういったカスタマーサービスを利用して「良かった」と感じることは、残念ながら少ないと思います。

 私などは、あまり電話で人と話をしたくないタイプですので、実は必ずしも「人が対応してくれればいいのに」とは思っていません。サポートが完全にウェブで完結しているなら、私としては大変嬉しい限りです。ただし、多くのサービスにおいて、解約などの手続きはデジタルでは完結しないようにしているところがほとんどです。

 それは「できれば解約させたくない」ということでもあるのでしょう。また、特に電気などのインフラサービスの解約においては、解約日の確認などを丁寧に行わないと「電気が使えない」「水が出ない」といったことになりかねず、どうしても人が介在する必要があるのかもしれません。ただ端的に言って、私が求めていたようなシンプルな手続きは、デジタルで完結してほしいと望む人は多いと思います。