この体験がとても素晴らしかったことから、私は「もうBOSEのイヤホンしか買わない」と心に決めました。その後、コードレスで使えるBluetooth対応のイヤホンに変えるときにもBOSE製品を選び、いまだに愛用しています。
このように優れた顧客体験は、ブランドイメージを大変高めますし、私のようなファンを増やすことにもつながります。SNSでのユーザーのコメントなどを見る限り、BOSEは製品の購入時だけでなく、購入前から購入後に至るまでのあらゆる時点において、電話やデジタルなどの経路にかかわらず、顧客とのさまざまなタッチポイントに気を配っているようです。
デジタルの力で顧客接点は
コストの源ではなく「宝の山」に変わる
BOSEをはじめ、CXの向上に取り組む企業にとって重要な視点は「カスタマーとのインタラクション(やり取り)は非常にコストがかかるが、一方でとてつもなく貴重なデータが得られる」ということです。タッチポイントでの体験に気を配ることで、どういう人がどんなことで困っているのか、相手は何を希望しているのか、そういった情報をいくらでも得ることができるようになります。
しかし、本稿で挙げた電力会社のような企業では、裏側にそうした情報を蓄積して管理するシステムがないのでしょう(あるとは思えませんでした)。電話をしてもその窓口が担当する用件で完結してしまい、企業横断で情報を共有する仕組みがないわけです。これはとてももったいないことだと感じます。
そう考えると、顧客とのタッチポイントにおいては単にコスト削減や省力化だけを考えるのではなく、あえて接点を増やし、各タッチポイントでの体験を良くしていくために、デジタルを活用するという視点を取り入れるべきなのではないでしょうか。
今やサポートセンターに入ってきた問い合わせについては、顧客情報に加えて、デジタルの力によって電話の音声データや質問のテキストデータなどの情報も含めて自動的に収集し、分析して可視化するような仕組みも用意されています。こうしたデジタルツールをうまく活用して、効果的に顧客体験を向上していくことが、今後、どのような製品・サービスの提供者にも求められることになるでしょう。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)