プロダクトやサービスによっては、あらかじめメニューの構造を示した小冊子を顧客に配布して、手続きごとにプッシュする番号を順を追って説明している例もあるぐらいです。顧客体験の設計としては、小冊子を配るのは配らないよりマシなことかもしれません。しかしそもそも、そんな構造のメニュー自体を見直した方がいいのではないでしょうか。
「生身の人間につながらない」というのも、私が出合った2つのケースの両方で言えることでしょう。もちろん、電話で話せなくてもウェブなどで解決するのであれば、それはそれでよいのです。ただ、最終的には人が解決しなければならない状況が多いにもかかわらず、そこへなかなかつながらないのはフラストレーションがたまります。何より腹立たしいのは、先方の理由で待たされているのに、「ナビダイヤル」などが使われていると、こちらの通話料金がどんどん上がっていくことです。
悪い顧客体験は製品・サービスが
本来持つ価値を損ねてしまう
野村総合研究所は、顧客体験(CX)の概念について次のような図で説明しています。
この図によれば、悪い顧客体験は、機能や性能・価格といった製品・サービスが本来持つ「合理的な価値」よりも顧客から見たときの価値を毀損(きそん)してしまう、ということになります。逆に良い顧客体験は商品・サービスが持つ本来の価値よりも顧客にとっての価値を上げてくれる可能性があるわけです。
先ほど挙げた電力会社や宅配業者の例では、合理的なサービス価値より顧客価値が下がっている状態と言えます。
一般には普段この電力会社を使っていて、悪い感情を抱くことはあまりないはずです。先日来、停電の恐れもありましたし、今後、エネルギー危機の状況下では多少違ってくるかもしれませんが、ほかの発展途上国などに比べれば、通常は非常に安定した電力供給をしてくれていますし、これまでのところ価格もものすごく高いというわけではありません。