人事担当者はランキングから何を学べばいいのか
“就職人気企業ランキング”は、企業の人事担当者が単に眺めるだけではもったいない。優秀な学生をどう採用するかは、人事部門にとって永遠の課題である。就活を行う学生と直に接する立場にある人事担当者は、ランキング結果から何を汲み取ればよいのだろうか。
高村 人事担当の皆さんは、大学や学生に対する“採用広報の評価の目安”としてランキングをご覧になるとよいでしょう。また、学生の両親や祖父母が「子や孫が入る会社はどれくらいの人気なのか」をチェックしているので、その視点を知るための材料にもなるはずです。
さらに、一般社員の方たちもランキング結果をよく見ていらっしゃるようで、「自社が、学生からどう評価されているか」は従業員のエンゲージメントに影響する面もあります。転職が当たり前になっているいま、「業界内における自社の位置づけ」を把握できるかもしれません
もう一点……ランキング上位にはなかなか入らない中堅企業や、ランキングとは無縁の中小企業の人事担当者の皆さんには、ぜひ、ランキングの上位企業が学生向けにどのようなアプローチをしているかを研究していただきたいですね。
上位の企業は、「大手」や「有名」という理由だけではなく、長年にわたって学生とさまざまな接点をつくり、入念に準備された情報発信を行っています。就活サイトでの発信はもちろんのこと、コーポレートサイトでの採用ページの見せ方やインターンシップの内容は参考になるはずです。
たとえば、理系男子にも人気の三菱商事は、昨年度(2021年度)は、学業で培った専門性をビジネスに生かす方法や、理系学部や大学院卒の社員が中心となって経験談を伝える「MC Web Seminar 理系編」をウェブ上で閲覧できるようにしていました。
文系女子にも人気の東京海上日動火災保険は社員の約半数を女性が占めており、そのロールモデルも豊富です。自社サイトの採用ページ内のインタビュー動画には複数の女性社員が登場し、仕事のやりがいや職務コースの選択理由、女性から見た働きやすさなど、女性目線からの情報発信をしっかり行っています。
知名度の低いBtoB企業や、新卒採用の人手もコストも限られる中堅企業・中小企業では、採用活動に労力をあまりかけられないという声もある。しかし、入社させたい学生像を明確にすることで、何をどう行えばよいのかが見えてくるはずだ。
たとえば、最近の学生は入社時から将来の転職を意識していたり、キャリア形成の観点から、あえて、中堅・中小企業やベンチャー企業を選んだりするケースもある。キャリア形成に関心の高い学生に響くのは、「人を育てる」ことに対する企業の姿勢と本気度だ。「うちの会社なら、こんなことができる。こんな経験を積める。こんな人材に育つことができる」といったメッセージを実際の業務やビジネスと関連づけて伝えられれば、学生の胸に響くだろう。
また、当然のことながら、学生は「ブラック企業には行きたくない」という意識が強い。表面的にはキレイなメッセージを発信していても、実態が伴っていないと、悪い情報が口コミで拡散しがちだ。SNSの普及もあって、口コミ効果はかなり大きなものになっている。学生の口コミをどう活用するか――そう簡単なことではないが、研究する価値は大いにある。
大切なことは、「学生目線に立ったメッセージ」であり、「学生の興味・関心に対する丁寧な情報発信」だ。“就職人気企業ランキング”を、採用戦略を見直し、組み立てるきっかけにしてみてはいかがだろう。