二舅は成人し、大工の職に就いた。得た収入で家族を養い、2人の妹が嫁ぐ際には、立派な一式の家具を作ったという。妹たちが嫁ぎ先で恥をかかないように、という気持ちからだった。また、二舅は手先が器用で、村の人々の多くの困り事も解決してきた。家電やガスストーブ、ランプ、水道などに故障があったとき、村人はこぞって二舅に相談した。彼の手にかかれば、よみがえるのだ。二舅は、地元の何でも屋であり、村の人気者となった。

 こんなエピソードもある。かつて中国の農村では、一人っ子政策の影響もあり、捨て子になる女の子が少なくなかった。そんな中、二舅は、置き去りにされた女の子を養子として迎え、育て上げたのだ。

 現在、66歳になった二舅は、88歳の母親の面倒を見ている。母親は障害のある息子に迷惑をかけたくないと、幾度も自殺を図った。以来、二舅は片時も母親から目を離せず、外へ仕事に行くときも母親と一緒だ。

 動画の製作者は、二舅にこんな質問をした。

「あなたより勉強ができない人も大学に進学して、大成している。もし障害がなかったら、今頃はシニアエンジニアになっていたはずだ。悔しくないのか?」

 二舅は、この質問に対して、「そんなふうに考えたことはない」と答えた。

官製メディアは称賛
一方で社会保障制度に批判も

 冒頭で述べたように、この動画は中国で大きな話題となった。賛否両論の意見が寄せられ、熱く議論される様子は、一種の社会現象と言っても過言ではない。「二舅」の2文字は、流行語となっている。

 では、なぜこの動画は中国国内でここまで注目されているのだろうか。

 上海にある研究機関、上海社会科学院の研究者である陳亜亜氏はメディアの取材に対して、「コロナ禍で、多くの人が焦燥感や不安感を抱えて落ち込んでいる。失業や生活苦に直面している人も増えた。そういうときに、この動画が映し出した苦難に直面しても前向きに生きる二舅の姿は、人々に感動を与え、ポジティブなロールモデルを示したといえる」と分析した。

 SNSでは多くの人からたくましく生きる二舅の姿に共感し、感動したというコメントが寄せられている。

「優しさ、忍耐力、広い心があれば、人生をより有意義なものにすることができるのです。 私たちは皆、自分自身と家族のためにヒーローになれるし、その真実に気づけば、まだ人生を愛せるのです」

「運命に翻弄(ほんろう)されても、二舅はへこたれることなく、威厳を持って自分の人生を歩み続けたのだ」

「今、若者の間に人生を放棄し、『寝そべり族』と称する人が増えているが、五体満足なのに何を言っているのか。二舅を見て恥じてほしい、頑張ってほしい!」
注※「寝そべり族」については、21年7月28日配信の記事『中国の過酷な受験戦争を勝ち抜いた若者が「寝そべり族」になってしまう理由』を参照。

「人民日報」や「経済日報」といった官製メディアも、二舅の人生を称えた。

「こうした過酷な運命に屈せず、一生懸命に生きる姿が、まさにわが中華民族の勤勉さ、善良かつ勇敢である優良な伝統であり、尊敬かつ見習うに値する」――。