逆に代謝が落ちていると、「心理的な時計」の進みは遅くなります。この場合、遅くなった心理的な時計の進み方に対して、物理的な時間はいつも通りなので、「物理的な時計」の進み方が相対的に速くなることになります。このようなズレがある状態では、「もうこんなに時間が経ったの?」と、あっという間に時間が進んだように感じられるのです。

仕事がはかどる時間帯、はかどらない時間帯は、「代謝」が関係している

 身体の代謝が、心理的な時計に大きく影響を与えるという話に関連して、もう1つポイントがあります。

 それは、「代謝は、一定の周期で変動する」ということです。

 ごく簡単に言うと、多くの人の場合、代謝は、朝起きたばかりはまだ上がっておらず、その後だんだん激しくなり、夕方近くにピークを迎えます。代謝が上がっていると、身体も頭もよく動くため、時間もゆっくり流れているように感じられます。その後、夜になると代謝はどんどん下がります。そして代謝が下がりつつある状態で就床すると、すぐに入眠できます。

 たとえば、「朝出かける前の1時間」と、「仕事がひと段落する夕方ごろの1時間」では、朝のほうが時間の進みが早く感じられませんか?まだ代謝が上がらない朝のうちは、心理的時計の進みが遅く、物理的時計が早く進んでしまうように感じられます。ですから朝のうちは、日中にできる作業の、3分の2もできればいいほうだと思います。

 このように、1日の時間の進展のなかで、身体の代謝は「周期性」を持って変動します。代謝だけではなく、ホルモンなどの内分泌を含む生理的状態や、睡眠や摂食などの行動パターン、覚醒状況などの心理的な状態も、周期的に変動していきます。

 この1日周期での心身の変動は、「サーカディアンリズム(概日リズム)」と呼ばれています。

1日の「サーカディアンリズム」に合わせて、業務を切り替えていこう

 このサーカディアンリズムがあることで、時間帯によって、向いている作業、不向きな作業があることもわかっています。

 たとえば、多くの人の場合、書類を読んだり文章を考えたりするような「論理的な判断」が必要な作業は、午前9時から正午ごろが向いています。一方、短期記憶や筋力を必要とするような作業は、午後2時から夕方ごろが向いています。(クロノタイプ「朝型」の場合)

 夜にかけて代謝は低下し、深夜あたりには、1日のなかでとくに低い状態になります。その時間帯は、集中力を要する作業の効率は大きく低下します。徹夜仕事するとエラーが頻出するのは、そのせいです。ほかの時間帯なら考えられないようなミスが、深夜帯には起こりやすいのです。スリーマイル島の原発事故や、スペースシャトル・チャレンジャー号の事故など、多くの重大事故の調査で、この時間帯の不注意によるミスが原因となっていることが指摘されています。車の運転や医療行為など、精神の集中を必要とする作業は、代謝の落ちる夜遅くにするのはとても危険なのです。