時間には、「物理的な時間」と「心理的な時間」がある

 まず、われわれが“時間”と言うとき、それには2種類ある、ということです。

 1つ目の“時間”は、世界標準時間通りに、規則正しく進む時間です。これは、いわば時計的な時間であり、時計によって計測できる物理的な時間のこと。時、分、秒と、どの単位で見ても、だれにとっても平等に進む時間です。いわば、客観的な時間です。

 それとは違うもう1つの“時間”。それが、「感じられる時間」です。

 この「感じられる時間」は、さまざまな要因で伸びたり縮んだりするのです。わたしたちは、世界標準時間を示す時計のほかに、心のなかに“時計”を持っているのです。この心理的な時計は、主観的な時間を計るものです。

 スマホを見ていると時間が過ぎるのがあっという間に感じられたり、退屈な会議はいつまでも終わらないように感じられたり、大人になるほど1年が早く終わるように感じられたり……。この奇妙な現象の背後には、「物理的な時計」と「心理的な時計」の間に生じるズレがあるのです。このズレが、「あっという間に過ぎる時間」や「いつまでも経たない時間」があることの原因です。

 それではどうして、時間は伸びたり縮んだりするように感じられるのでしょうか。

スマホの1時間より、山歩きの1時間のほうがゆっくり感じられるわけ

 時間の感じ方について、まずポイントとなってくるのは、「身体の代謝」です。

「代謝」とは、生命の維持のために、外界から取り入れた無機物、有機化合物を素材として体内で行われる合成や化学反応のことで、新陳代謝のことです。

 身体の代謝が激しいときには、「心理的な時計」は速く進みます。速くなった心理的な時計の進み方に対して、物理的な時間は変わらずに進むので、「物理的な時計」の進み方は相対的に遅くなることになります。このようなズレがある状態では、「時間がゆっくりと進んでいるように感じられる」ことになります。

 つまり、心理的な時計では「5分は経っている気がする」のに、実際の時計(物理的な時計)を見ると「3分」しか経っていない。それで「まだ、これしか経っていないの?」と感じるわけです。

 部屋でくつろぎながらスマホを触っているより、山歩きなどの運動をしているほうが、身体の代謝は高くなります。山歩きの1時間のほうがのんびりと感じられる理由の1つは、この代謝の亢進による、「物理的時計の相対的な遅れ」にあるのです。