JAと郵政 昭和巨大組織の病根#13Photo by Takeshi Kubota

JAならけんの中出篤伸会長がJA全農の役員の地位を乱用してインサイダー取引を行った。驚くべきことに、中出氏は違法行為の事実を認めた後も農協の会長ポストに居座り続けた。だが、9月になって事態は急展開した。農家らが中出氏の辞任を求める運動を起こしたのだ。関係者によれば、本稿執筆時点(9月21日)で中出氏は辞任を受け入れる意向を示している。だが、院政を敷こうと子飼いの役員を会長に据える後継人事を模索しているともいう。農家らは役員の刷新を要求しており、経営陣との対立は続きそうだ。特集『JAと郵政 昭和巨大組織の病根』(全15回)の#13では、JAならけんの権力闘争の舞台裏と、経営の混乱がもたらす“農協離れ”の実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

共済の営業実績は前年度の7~8割に低迷
もし、中出氏が会長に居座れば農協は縮小へ

 JAならけんが前代未聞の経営トップのスキャンダルに揺れている。

 事の発端は、JAならけん会長の中出篤伸氏によるインサイダー取引が発覚したことだった。

 伊藤忠商事が大手コンビニエンスストア、ファミリーマートに対しTOB(株式公開買い付け)を実施した2020年7月、JA全農の役員だった中出氏は、TOB行使が公表される3時間半前にファミリーマート株式を350万円分買い付け、公表後に売却。この取引で120万円超の利益を得た。

 TOBにより伊藤忠がファミリーマートを完全子会社化した後、JA全農と農林中央金庫がファミリーマート株式の一部を取得し、資本参加することが決まっていた。中出氏はJA全農役員として知り得たTOBに関する公表前情報を基にインサイダー取引を行ったのだ。

 中出氏は今年4月、JA全農の役員を「一身上の都合」で辞任したものの、JAならけんの会長ポストにはしがみ付いたままだった。

 だが、金融機関のトップがインサイダー取引という違法行為に手を染めながらも続投するという異常事態に、「待った」をかける運動が始まった。JAならけんの組合員である農家らが「奈良県農協・中出篤伸会長の辞職を求める会」を発足させたのだ。

 次ページでは、JAならけんの権力闘争の舞台裏と、経営トップの醜聞がもたらす“農協離れ”の実態を明らかにする。