JAと郵政 昭和巨大組織の病根#12Photo:JIJI

独り暮らしの90代の女性が、農協に勧められて共済(保険)を25件も契約し、月15万円もの共済掛け金の支払いで貯金残高が尽きかけていた――。それを知った子や孫の憤りはいかばかりか。しかも子や孫は、自分が共済の契約者になっていることを知らず、当然、申込書にサインしたこともなかった。特集『JAと郵政 昭和巨大組織の病根』(全15回)の#12では、全国で相次ぐ共済の不適切販売の被害者が、農協の不正の手口とそれが明らかになった後の不誠実な対応を暴露する。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

>>【【動画】JA共済の被害者3人が怒りの告発!農協職員による違法契約で90代女性が犠牲に】から視聴する

金融機関勤務の被害者だから気付けた
岐阜・茨城のJAの不正ともみ消しの手口

「かんぽ生命の不正が社会問題になり、当組合においても共済推進に不安を感じている職員が多くいる。(中略)そうならないためにも無理な目標設定をしないよう指導の徹底をしていただきたい」

 これはJAおおいたの労働組合が2020年の春闘で農協に突き付けた要求書の一部だ。

 かんぽ生命保険の不適切販売では利用者の利益を無視した契約の変更や、本人の同意を取らない悪質な保険の販売が問題になった。JAおおいたの労組の要求は、かんぽ生命と同様の不正が農協でも行われていることに多くの職員が危機感を抱いていた事実を物語っている。

 ダイヤモンド編集部は、農協の共済事業の推進に問題があることを職員への取材を基に報じてきた(詳細は特集『A自爆営業の闇 第2のかんぽ不正』の#3『JA共済「自爆営業」報告数1位JAならけんの「保険金詐欺」「不適切販売」の呆れた実態』参照)。

 しかし、これまで農協による共済の不適切販売の被害者が取材に応じてくれることは少なかった。なぜなら被害者の多くは農協幹部ら地域の有力者に口を封じられているからだ。そもそも保険販売のルールに精通した組合員が少なく、不正に気付かないケースも多い。

 今回、取り上げるのはJAにしみの(岐阜県)とJA稲敷(茨城県)のケースだ。取材に応じてくれた被害者は生命保険会社など金融機関に勤務しているため保険販売のルールを熟知しており、証拠集めも的確だった。

 次ページでは、90代女性が25件もの共済契約を結ぶという“異常な不適切営業”の実態を被害者家族の証言と「証拠資料」により明らかにする。また問題発覚後の農協の対応も不誠実だと言わざるを得ず、組織防衛へと走る農協の「隠蔽体質」に迫る。