一読のすすめ

 90年代、社会に一石を投じた著者の『完全自殺マニュアル』には、こんなくだりがある。「どん詰まりの世の中に風穴を開けて風通しを良くして、ちょっとは生きやすくしよう」。

 本書にもそんな思いを強く感じる。著者の言葉は、ストレートで、それでいて、やさしい。要約には含められなかったが、「そもそも恋愛をしなくていい」から始まる「恋人をゆるめる」の章も興味深い。一対一でのパートナー関係が、どこか楽なものになるはずだ。

 著者が主宰する「不適応者の居場所」の記述もある。そうした著者の体験に触れることで、読者が共感し、何らかの行動を起こすきっかけになればとも思う。それが、著者の求める「やさしい世界」につながる。

 他人のことを気にかけて心が苦しいと感じたことのある人は、ぜひ一読してほしい。それぞれに刺さるフレーズがたくさんあるはずだ。読後には、「もっといいかげんでいいのだ」と肩の荷をおろせるだろう。

評点(5点満点)

総合3.8点(革新性3.5点、明瞭性4.0点、応用性4.0点)

著者情報

 鶴見 済(つるみ わたる)

 1964年、東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒。複数の会社に勤務した後、90年代初めにフリーライターに。生きづらさの問題を追い続けてきた。精神科通院は10代から。つながりづくりの場「不適応者の居場所」を主宰。著書に『0円で生きる』『完全自殺マニュアル』『脱資本主義宣言』『人格改造マニュアル』『檻のなかのダンス』『無気力製造工場』などがある。

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