伝統と革新の両輪で大山の酒を醸し続ける
山形県鶴岡市の大山地区は、18世紀には全国有数の酒造りの地で「東北の灘」と称された。山地に囲まれ最上川が流れる庄内平野は、米の一大産地。天領で酒税率が低く、酒造業が奨励され、酒を北前船で山口県の下関まで移出。最盛期には40軒以上の蔵が軒を連ねた。蔵同士の団結力も強く、統一銘柄「大山酒」として地域ブランドを確立。酒造技術を共有し、酒質を向上させて東北随一の酒処として繁栄した。
高い酒造技術を継承し、今も大山を造り続けているのが、1872年創業の加藤嘉八郎酒造(かとうかはちろうしゆぞう)だ。先進的な醸造機械を自社開発し、1973年には自然対流が促進される半球体型のOSタンクを発売。0.2℃単位の温度管理を可能にし、業界を驚かせた。78年には、伝統的な蓋(ふた)麹作りを応用したKOS製麹装置が完成。現役で稼働している初号機は、どちらもコンピューター制御がなく、使い方はあくまで手動。蔵人が麹菌や酵母の様子を観察して判断を行う。清潔で再現性の高い酒造りができるとあって数十社の酒蔵で採用された。