「統制的なモチベーション」を高める方法はシンプル
組織においては、従業員全員の「自律的なモチベーション」が高まっている状態が理想なのだろうか。例えば、「『統制的なモチベーション』の必要はないのか?」という疑問も生まれてくる。「自律的なモチベーション」と「統制的なモチベーション」のバランスはどのようなものが理想か?
伊達 実は、「自律的なモチベーション」も万能ではありません。「自律的なモチベーション」が成果を発揮しやすい業務領域もあれば、苦手な領域もあるのです。「自律的なモチベーション」は、アウトプットの質を高めていくことが得意で、かつ、複雑なタスクに対して効果を発揮します。つまり、難易度が高かったりクリエイティビティが求められたりするような仕事には「自律的なモチベーション」が重要になります。
一方で、「統制的なモチベーション」が高い方が得意な仕事の領域もあります。それはシンプルなタスクです。例えば、1時間の間に似たような作業を繰り返すといった「量」が求められる仕事の場合には、その回数ごとにインセンティブが付くといったことで得られる「統制的なモチベーション」が機能しやすいのです。
「統制的なモチベーション」を高める方法は「自律的なモチベーション」よりもシンプルだと伊達さんはいう。金銭的な報酬や地位・名誉などの付与がモチベーションの向上につながっていくのだ。
伊達 「統制的なモチベーション」は複雑な課題へのパフォーマンスを下げてしまう一方で、単純な課題へのパフォーマンスを上げることがわかっています。つまり、どのような仕事内容かを踏まえたうえで、上司は部下に対して、働きかけるべきモチベーションを検討していく必要があります。
「自律的なモチベーション」と「統制的なモチベーション」のバランスは、人によって差がある。例えば、「自律的なモチベーション」が100のうちの80程度で、「統制的なモチベーション」が20程度の人、あるいは、その真逆の人もいる。
伊達 難易度が高く、権限のある業務を担う職場においては、「自律的なモチベーション」が高い人は機能しやすいです。企業文化の中で、「仕事の報酬は仕事」といった考え方がありますよね。それは、ひとつの仕事をクリアすると、より高いハードルの、より大きな仕事を任せてもらえるようになるといった意味ですが、「自律的なモチベーション」が高い人はこうした価値観の中でイキイキと働くことができます。他方で、「統制的なモチベーション」が高い人はそうした職場では意欲を持ちにくいといえます。
どちらのモチベーションをより高く持っているかで、適する仕事も変わってくる。そして、「モチベーションが高まっていない」と感じる従業員に対しては、職場環境を変えることも有効な手立てとなりうると、伊達さんは説く。
伊達 モチベーションが高まるか否かは、環境や与えられる仕事との組み合わせによるところが大きいです。その人と業務内容の相性も重要。例えば、量をひたすらこなす成果主義の営業で、自分の叩き出した売り上げ分が自分にそのまま跳ね返ってくるような仕事であれば、「統制的なモチベーション」の人はやる気を発揮しやすいでしょう。一方で、「自律的なモチベーション」が高い人はこうした職場では活躍しにくいかもしれません。
大切なことは、それぞれの従業員が強く持つモチベーションの傾向と仕事の質の相性を上司や会社が見極めること。「意欲が低い」従業員がいれば、思い切って環境を変えることも効果的なマネジメント方法のひとつだといえます。
*当インタビューは、書籍『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の「Part4・育成と自律性にまつわる処方箋/従業員のやる気を高めたい」をもとに、伊達さんに改めて語っていただいたものです。