人材を「資本」としてとらえ、積極的に投資していく

  経済産業省のホームページ*1 では「人的資本経営」を次のように定義している。

 人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

 ――では、いったいどのような背景と経緯から、「人的資本経営」が注目されるようになったのだろうか。

*1 経済産業省 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ より

伊藤 これまで、多くの企業では設備投資が企業価値を高めると考えられてきました。人材は設備を動かしたり、業務を遂行したりする「資源」であり、必要な人数をどうやって確保するか、人件費をいかに効率化するかが課題でした。

 しかし、いまや、企業価値の多くは知的財産やアイデアなど無形資産によって生み出され、人材の知識やスキルを継続的に引き上げていくことが不可欠です。そのためには人材を「資本」としてとらえ、積極的に投資していかなければならないという考えに切り替わってきているのです。

 こうした発想の転換は「非財務情報」への関心の高まりにつながっています。従来の企業経営や機関投資家の資金運用においては、BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)などの「財務情報」が重視されてきました。ところが、2008年のリーマンショックあたりから「財務情報だけでいいのか?」という疑問が広がったのです。

 そもそも、財務諸表に記載されている情報は過去の実績に過ぎません。社会や経済が安定していた頃は、過去の延長としての未来を、ある程度は予測することができました。しかし、コロナ禍やウクライナ紛争を見ても分かるように、いまや世界は激動の時代を迎えています。また、どんなに新しい技術も、新しいビジネスモデルも、数年で陳腐化するようになっています。そんな厳しい状況においても、企業は価値を創造し、収益を確保し、持続的に成長しなければなりません。

 未来の価値創造や成長について各企業がどのような戦略を立て、それをどのような方法や体制で実現するのか――財務諸表には表れない潜在的な実力と将来性を知るため「非財務情報」が求められ、そのひとつとして「人的資本」の状況や取り組みが注目されているのです。