一つ一つの食事は、たしかに健康的です。

 消化にもよく、体にもやさしそうです。実際に、こういう食生活が「体にいい」と信じている人は多いでしょう。コレステロール値も血糖値も低いままに抑えられますし、塩分さえ注意すれば、血圧が極端に上がることもありません。

 ただ、こういう食生活だと、毎日がほぼ、似たような料理の繰り返しになってしまいます。食材や味付けを少し変えるぐらいですんでしまうからです。

 つまり、食卓から、だんだんと「変化」がなくなってくるのです。

 しかも、全体的に、タンパク質が足りていない。

「健康数値」にこだわりすぎると、「見た目年齢」や「心理年齢」が上がることは珍しいことではありません。

 一見、理想的な食生活が、肉体的、精神的な老いを加速させることもあるのです。血圧や血糖値やコレステロールの数値がどんなに優等生でも、見た目がしょぼしょぼの70代になってしまうことも少なくはありません。

 個人的には、65歳を過ぎたら、「健康数値至上主義」とも、そろそろお別れしてもいいように思います。「健康数値がいいなら、見た目だって若いはずだ」と考える人が多いようですが、大きな誤解です。

 私がいままでに接してきた70代で言うと、「見た目年齢」が若い人のほとんどが、血圧もコレステロール値も少々高めでした。少なくとも、検診で定められている基準の数値よりは高めの人が多かったのです。逆にうつ気分の続いている70代のほうが、「健康数値」は正常だったりします。

 65歳過ぎたら、むやみに健康になろうとしないほうがいいのです。

執筆・監修/和田秀樹
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。