自己理解とは己を知ることです。一見、簡単そうですが、これが意外と難しいのです。

 老子曰く「人を知る者は智なり、自らを知る者は明なり」(他人を知る者は知者であるが、自分を知る者は賢者である。他人を知るより自分を知るほうが難しい)です。面接で「どんな仕事をしたか」と問われて答えに窮するのは、自分がわかっていないからでしょう。

 現在、キャリア研修において、自分を知るための王道といえるのが「WILL・CAN・MUST」のフレームワーク。それぞれの単語はどなたでも意味をご存じの簡単なものですが、WILLは「自分のやりたいこと」、CANは「自分のできること」、そしてMUSTは「会社や社会から期待されている役割」を意味します。

WILL――“本当にやりたいこと”の見つけ方

 まず、「WILL」について考えてみましょう。

 長く働く上で最もストレスがないのは「嫌なことはしない」「我慢してまでしない」ことでしょう。これまでの長いキャリアの中で、自分が最も自分らしく、演技しないで自然に仕事ができたのは、どの時期の、どの職場でしょうか?

 皆さんは、これまでもさまざまな挫折や修羅場を体験されたり、一方で、粘り強い営業努力が実って大型契約を受注されたり、なかには社長表彰の栄誉に輝かれたり、自分だけの成功体験、失敗体験を重ねてこられたと思います。バブル景気やバブル崩壊、リーマン・ショック、さらに多くの企業再編劇なども、職場での仕事を通じて体験されてきたと思います。

 この作業は「やりたい仕事」を前述のように職種で考えるだけではなく、「働き方や生き方」まで範囲を広げてみることも大切です。

「ずっと組織人として宮仕えを続けてきたが、本来の自分は一国一城の主として、自律自転した生き方が性に合う」「ノルマ達成に邁進してきて、見て見ぬふりをしてきたが、これからは社会的弱者に手を差し伸べる生き方を追求したい」「単身赴任を続けてきたが、これからは家族との時間も大切にした働き方に変えたい」というふうに、自分の内面の声にも耳を傾け、これまでの歩みを振り返り、60代以降の生き方・働き方をイメージしてみることもおすすめします。