「経済にとって悪いニュースは資産価格にとって良いニュース」と言われるが、米株式市場はその通りの動きに戻っているようだ。2008年の金融危機後はその考えが通用したかもしれないが、現在の悪いニュースはただ悪いだけかもしれない。SP500種指数は先週、米求人件数が予想外の大幅減となったことを受けて上昇したが、この数営業日は堅調な9月の米雇用統計を手掛かりに大きく下げている。どうしてこのような展開になるのだろうか。そこには「方針転換」への大きな期待がある。すなわち、経済活動が減速すれば米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な利上げをやめる、という期待だ。これは過去10年半にわたって資産運用を手掛けてきた人にとっては、おなじみの発想だ。さえない経済指標が発表されると、企業利益の減少が示唆されるものの、最終的には金融緩和期待を背景に株式が再評価され、「他に選択肢はない(there is no alternative=TINA)」と呼ばれる消去法的な取引になる。逆もまた然りだ。SP500種指数の2009年以降のリターンについて、その半分はバリュエーションの拡大によって説明がつく。