ポイント1 売り先を変える
価値を分かってもらえる相手との関係を築く

坪内知佳さん坪内知佳さん
1986年福井県生まれ。GHIBLI代表取締役として「船団丸」ブランドを展開する。名古屋外国語大学を中退後、山口県萩市に移住。翻訳事務所を立ち上げ、同時に企業を対象にしたコンサルティング業務を開始。2011年に任意会社「萩大島船団丸」代表に就任。農林水産省から6次産業化の認定を受け、漁獲した魚を直接消費者に届ける自家出荷をスタート。漁業関係者の注目を集める。2014年に「萩大島船団丸」を株式会社化しGHIBLIを立ち上げ。翌年から事業の全国展開を開始し、各地に「船団丸」ブランドが拡大している。 Photo by Tomoyuki Hatatani

 商品単価が10倍以上になった一つ目のポイントは、売り先を変えたことです。

 このビジネスが始まる以前、漁師たちは取れた魚の全量を漁協の市場を通して仲買に販売していました。それを、飲食店や消費者に直接届ける形に変えたのです。

「それだけ?」と思われるかもしれませんが、水産業界の事情を知る人であれば、この難しさが分かります。

 まず、鮮度が落ちやすい魚をとにかく早く流通にのせるため、多くの地域で漁師は漁協の市場を通して魚を全量出荷することが通例になっています。漁協はそこでの販売手数料を収入源としており、仲買はそこで魚を仕入れて売る仕組みです。ということは、漁師が魚を直接に飲食店や消費者に売るとなると、漁協や仲買の収入が減るため、反発が起きやすいのです。

 では、この状況下で、どうやって直接販売につなげたのでしょうか。そのポイントは、市場では価値のつかない「混獲魚」に着目したところにあります。

 実は、仲買にはそれぞれ専門としている魚種があり、そうでない魚種は売り先がないため欲しがりません。漁師は漁をする中で、仲買に高く買ってもらえるよう、専門とする魚種を狙いますが、自然相手の漁業では、それ以外の魚(=混獲魚)が入ることもあります。坪内さんが働く山口県の萩大島の場合、売買の対象となるのはアジやサバなどの青魚が中心で、真鯛やカマスといった一般的に価値のつく魚でさえ、混獲魚扱いになります。

 このことからも分かるように、混獲魚といっても価値がないわけではないのです。しかも混獲魚であれば、もともとの流通に影響を及ぼしにくく、漁協や仲買の不利益にはなりません。この点が突破口となりました。

 坪内さんは、「萩大島の魚は本当に美味しいのですが、信じられないくらい安い値段で取引されていました。ただ、この価値を分かってくれる人が必ずいると思い、その人たちの元へ魚を届けることが大事だと思いました」と話しています。

「粋粋BOX」は、その後の紆余曲折の中でも「価値を分かってくれる相手に届け、その相手との関係を築く」という点において、ブレることなく進められています。