「どんなに努力してもかなわない」。歴然とした才能の差を感じる相手が目の前にあらわれたら、あなたならどうしますか。
人気絶頂の中、日本でのすべての芸能活動を休止し、渡米してから約30年。その生き方と圧倒的な個性で注目を集めてきたタレント・野沢直子さんも、実は20、30代の頃、「自分には実力がない」と葛藤した時期があるといいます。
還暦をまえにして「60歳からの生き方」について語ったエッセイ集『老いてきたけど、まぁ~いっか。』も大きな話題を呼んでいる野沢さん。今回は本書の発売を記念し、人生の苦境を乗り越えるためのヒントを、野沢さんにもらうことにしました。(取材・構成/川代紗生、撮影/榊智朗)
伝説のコント番組『夢で逢えたら』に出演
人気絶頂でアメリカ行きを決めた理由
──20歳で芸能界デビューし、今では伝説のコント番組『夢で逢えたら』にレギュラーとして出演。ダウンタウンさん、ウッチャンナンチャンさん、清水ミチコさんなどと共演されたのち、人気絶頂の最中、アメリカ移住……と、野沢さんは、お若い頃から、既存の枠にとらわれず、自由に人生を謳歌されている印象があります。現在も、アメリカに住んでいるんですよね。
野沢直子(以下、野沢):はい、今はサンフランシスコに住んでいまして。3人の子どもたちは全員成人しているのですが、一応まだ下の息子が21歳で家にいるので、主婦業が中心の生活をしています。
──年に一度、日本でも活動されているとか。
野沢:はい、私は「出稼ぎ」と呼んでいますが(笑)。基本的には夏に2ヵ月滞在し、その期間に集中してお仕事をさせていただいています。コロナ禍ではなかなか来られなかったので、今年は3年ぶりでした。
──渡米したきっかけについて伺いたいんですが、ちょうど移住されたのが28歳ですよね。
野沢:そうですね、28歳ですね。
──私、今29歳で。
野沢:おおー(笑)。
──すごくあの、なんて言うんですか、悩み多き年齢というか。
野沢:ああ、そうですね。うん。28歳、29歳って絶対、誰にとっても大きなポイントだと思います。
──やっぱりそうですか。
野沢:うん、絶対そうだと思います。30代が目前になって、「あ、いままで目の前のことをひたすらこなすだけだったけど、これからどうしよう」って、一回止まるところですよね。私もそうでした。
──野沢さんもそうだったご経験があるというのは、とても励まされます。
野沢:絶対、みんな立ち止まるポイントだと思いますよ。20代は、社会に出て、「自分の基盤」を作れるように闇雲に動きまくる時期じゃないですか。それを乗り越えた30歳前後って、ようやく落ち着いてきて、暗闇の中でちょっと光が見えるようになってきた、みたいなタイミングだと思うから。だからこそ、いままでやってきたことをこの先続けるのか否か、どうしても考えちゃうと思う。
──野沢さんのご経歴を拝見していて、すごく驚いたんです。28歳で、しかもお仕事が絶好調のタイミングで海外移住の決断って、いやあ、私できるかなあと思って。
野沢:よく考えると、やっぱりちょっと馬鹿だったのかなっていう気もしてるんですけど(笑)。
──(笑)。
野沢:なんだろう、迷いは全然なかったんですよね。「一刻も早く行かないと!」くらいの感じで、勢いだけで行っちゃって。
──思いついてから実行までにどれくらいかかったんですか。
野沢:たぶん、3、4ヵ月くらい(笑)。
──めちゃくちゃ行動が早いですね! 子どもの頃から海外に憧れていたとか?
野沢:いや、全然それはなくって。『夢で逢えたら』に出演していたとき、とにかく、共演者のみんなの実力がすごかったんです。足を引っ張らないようにするのが精一杯。それが結構きつくて、「ああ、私はもうだめだ」という気持ちがどんどん大きくなっていったんですよね。