コロナ禍で、私たちの生活や働き方のスタイルは大きく変わった。たとえば、テレワークによって通勤時間がなくなり、空いた時間を有効的に使い始めた人もいるだろう。一方、在宅時間が増えたことで、家事や育児にいっそう多くの時間を費やす人もいる。日常の中で“時間をうむ”ために行えるさまざまなこと――PR会社として知られるビルコム株式会社が立ち上げた「ゆとりうむプロジェクト」はそれを提案し続けている。プロジェクトの発起人である長沢美香さん(ビルコム株式会社 メディア局長)に話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)
プロジェクト設立のきっかけはレトルトカレーのPR
「ゆとりうむ」は複数の企業が連携するプロジェクトで、 “ゆとりある時間”を生活者がうみ出していくことを提案している。キャッチコピーは「ひろげよう。暮らしに、ゆとりをうむ工夫。」――まず、プロジェクトが生まれたきっかけを長沢さんに聞いた。
長沢 当社が、ある食品メーカーさんのレトルトカレーをPRしたことが「ゆとりうむプロジェクト」の起点です。レトルトカレーは“一人暮らしの人が急いでご飯を食べるときのもの”といったイメージですが、PRでは、“忙しいお母さんをサポートする食べ物”という打ち出し方をしました。女性の社会進出が進み、働く女性を支える男性も増えているなか、“仕事から帰宅し、小さなお子さんにご飯を作って食べさせる”といった家事に追われている人は多く、「週に1回くらいはレトルトカレーを」というメッセージを発信したのです。結果、新しい顧客層を開拓できたのですが、家事をサポートする意思を適切に伝えたり、生活スタイルの価値観を提案したりすることは1社の商品だけでは難しいことも痛感しました。そこで、企業連携によるプロジェクトが必要だと考えたのです。
「ゆとりうむ」では、「時短(タスクの時間短縮)」という考え方ではなく、「時産(新たな時間の創出)」という考え方を掲げているが、「時産」はあまり聞き慣れない言葉だ。
長沢 当初、プロジェクトの名前として「時産ライフ協会」というものも挙がっていました。「“時間をうむ生活”のための協会」という意味です。「時短」でなく、「時産」というキーワードは、プロジェクトの着想時からもので、雑誌などでちらほら使われていました。
「時短」は「手抜き」を連想させることもあるので、「時短」ではなく「時産」という言葉をあえて掲げ、“時間の短縮ではなく、時間をうむという考え方が「ゆとりある生活」につながる”と、「ゆとりうむ」ではメッセージしています。
長沢さんがメディア局長を務めるビルコム株式会社は、「戦略PR事業」を柱とし、商品やサービスのPRを行う企業をクライアントにしている。レトルトカレーを生産販売する食品メーカーとの協業が「ゆとりうむプロジェクト」のきっかけだったわけだが、他にはどのような企業がプロジェクトのスタートラインに立ったのか。
長沢 ゆとりうむプロジェクトにご参画いただける企業を探していたときに、ちょうど、旭化成ホームプロダクツさんから「下味冷凍*1 」をPRしたいというお話があって、「ゆとりうむ」の考え方と合致するので、プロジェクトのお話をさせていただきました。下味冷凍のPRはコンペだったのですが、「ゆとりうむ」の考え方にご共感いただき、当社がPRの仕事を承りました。その後、多業種の企業さんにプロジェクトへの参画をいただいたうえで、「ゆとりうむ」は2019年7月に発足の記者発表を行いました。
*1 肉や魚といった食材に下味を付けて冷凍する調理テクニックのこと。
長沢美香 Mika NAGASAWA
ビルコム株式会社 メディア局・局長
SP業界からPR業界へ転身し、20年以上にわたり、企業のブランディング、マーケティングに従事。toCでは旭化成ホームプロダクツ、旭化成ホームズ、マツモトキヨシ、toBでは専門商社、人材関連企業等、大手企業を中心としたプロジェクトチームを統括し、メディア局長を務める。メディアが多様化するなかで、単なるメディア露出増加だけではなく、コーポレートブランディング、SOEPメディアを統合し、経営課題を解決するPRコミュニケーションを設計している。