「1万人限定」「募集は1年で終了」
資金を集めたEWCPの巧みな勧誘手口

「EWCPの会員として1万人の登録者が欲しい。そこから紹介者を増やし、ポータルサイトの利用者を次々と増やしていく」。さらに、こう付け加えることを忘れなかった。

「会員の募集は1年程度で終了する」――。

 その言葉を信じ、三井さんは翌日、7万3600円を支払って会員となった。その後、EWCPが主催するセミナーに参加するようになる。

 セミナーで男性らは、実在する有名企業の名前が挙げながら、次のような説明を行った。

・NECビッグローブからゲーム業界第6位のゲーマーズワンというゲームプラットホームを買収した。モバゲーやグリーの売り上げは1000億円程度であり、利益も500億円程度であることからゲーマーズワンの売り上げも相当程度見込める。

・auでの売り上げが月額2億円を超えており、NTTドコモの売り上げはその2倍はいく。ゲームはAppStoreでも配信し、世界的に売り上げを伸ばしていく。

・EWCPは上場企業を買収する予定だ。

これらは無論、虚偽であることが後に判明するが、13年3月末にEWCPの会員募集を締め切るとの説明にあおられるようにして、三井さんはさらに出資額を増やしていった。三井さんが最終的に支払った総額は約400万円に上る。

 千葉県在住の田所彦三さん(仮名、70代)も、セミナーに参加した一人だ。

 やはりそこで聞かされたのは、りらっつが世界的なポータルサイトへと発展し、莫大な利益を生むという“夢物語”だ。田所さんは自分だけでなく、息子も誘い、親子で入会。二人の最終的な投資額は200万円超に達した。

 この話がどのような結末を迎えたかは、想像に難くない。

 ポータルサイトのリニューアルは12年4月に着手するとの説明だったが、一向に公開されることはなかった。また、NTTドコモの「dマーケット」を通じてゲームを配信し、NTTドコモを通じて利益を配当するとしていたが、その契約すら行っていなかったことも判明した。都内にあったEWCPの事務所はもぬけの殻となり、連絡手段も途絶えてしまった。

 三井さんや田所さんらは今、EWCPの元取締役の男性3人に損害賠償を求め、東京地方裁判所に訴訟を起こしている。代理人を務める玉木賢明法律事務所の高田祐輔弁護士が調査を行った結果、男性らの巧妙な勧誘手口の詳細が明らかになった。

 まず三井さんや田所さんのような会員が配当を受けるためには、「ポータルパッケージ」を購入することで「ポジション」を獲得しなければならない。

 パッケージの価格設定も“絶妙”だ。最初の一つ目は3万9800円、二つ目以降は3万5800円。このパッケージ一つにつき、一つのポジションを獲得することができ、基本的にはポジション数に応じて配当金が増える仕組みとなっている。

 また会員が、新規会員を勧誘した場合に得られる配当もあった。会員は自らが獲得したポジションに加え、勧誘した知人らが獲得したポジションも配当に算入されるのだ。この仕組みにより、会員に他者を勧誘するインセンティブが生まれる。まさに会員が会員を増やす「マルチ商法」だ。

 高田弁護士によれば、男性らはEWCPを精算した後、Sanctuary(サンクチュアリー)やARKという名の別会社を次々に設立。化粧品や健康食品などに商材を変えてマルチ商法を続けているとみられる。ARKは今年3月、特定商取引法に違反する行為があったとして、中部経済産業局などから行政処分を受けている。

 マルチ商法の歴史は古く、過去にも豊田商事や安愚楽牧場など多くの被害者を出す事件が相次いだ。近年の勧誘行為はEWCPの例に見る通り、インターネットを介して行われるケースが増え、被害の実態が見えにくくなっている可能性があるという。

 近く結成する「EWCP・Sanctuary・ARK被害連絡会」は玉木賢明法律事務所(070-4212-2119、受付時間:平日午前10時~午後5時)内に開設する。

 高田弁護士は「EWCPは全国で1万人の会員を募り、実際に会員募集を締め切ったことから1万人相当の会員がいた可能性がある。マルチ商法の被害を抑止するためにも可能な限り多くの被害者の証言を集め、全容解明に努めたい」と話している。