越境学習の効果を組織に取り入れる「複業留学」

 加藤さんは「決して、全ての企業が副業を解禁するべきだとは思わない」と話す。副業をどう位置づけるかはそれぞれの企業の経営判断に任されるべきだからだ。副業解禁には慎重な姿勢を見せる一方で、副業による人材開発・組織開発の効果を取り入れたい、という企業は増えている。エンファクトリーでは、10年を超える「複業」のノウハウを生かし、「複業留学」という越境学習を進める研修プログラムを開発し、サービス提供している。

加藤 「複業留学」は、ベンチャー企業で3カ月チャレンジしてみるというプログラムです。企業・組織内個人の越境学習を進めるプログラムですが、個の育成はもちろんのこと、より組織波及をもくろんだものとなっています。「複業留学」では、本業の仕事を行いながら、別の会社の課題にチャレンジします。基本的に本業の職場から離れることなく、日常的に本業の職場(ホーム)と予定調和でない「複業」の職場(アウェイ)を行ったり来たりすることで、これまでの当たり前の環境への違和感が生まれ、自己認識や理解が進む、気づきを得る、適応力が磨かれる、など「越境学習」の効果を得ることができます。とはいえ、単に「越境」をするだけでは、より深い個人の学びにつなげることはできません。「複業留学」では、越境学習の効果をより高めるため、「留学生」同士が学び合う、ピアラーニングの仕組みを取り入れています。また、送り手企業側の同僚や上司などの社員と「留学生」の活動を共有し、「複業留学」の効果を組織へと波及させるような仕組みも持っています。

 この「複業留学」はサービスを立ち上げて3年ほどたちますが、若手、次世代リーダー層、管理職、そしてミドルシニアまで100名を超える方々が参加し、9割超の企業に継続してこのプログラムを活用していただいています。また、異業種でチームを組んで、ベンチャーやNPOの課題にチャレンジする「越境サーキット」というサービスも開始いたしました。さらには、この4月から「越境コンソーシアム」という、大企業同士が会社の垣根を越えて、自社の課題を出し合い、所属する企業のメンバーに越境し、チャレンジする場を相互に提供するという取り組みも開始しています。

 いずれにしても、こうした取り組みを組織へと波及させるためには、長い年月をかけてじっくりと取り組み、自律性、主体性をカルチャーとして浸透させていくことが大切です。身近に「副業したことがある人」が増えてくると、「私もやってみようかな」という雰囲気が生まれ、間違いなく、組織は少しずつ変わり始めます。

“複業”で人と組織を成長させる会社の“たった1つのルール”とは?

 

*当インタビューは、新型コロナウィルス感染症に対する万全な予防対策のうえに行われました。被写体は、撮影時のみマスクを外しています。