単なるお小遣い稼ぎのアルバイトではない「複業」

 エンファクトリーでは「副業」を「複業」と定義し、表記している*1 。「複業」には、単に本業とは別の収入源確保のために本業以外の仕事を行うのではなく、複数の仕事やコミュニティ、複数の収入源を持つことで自律的に仕事をしてほしいという思いが込められている。とはいえ、どんな「複業」でもいいというわけではないという。

*1 以下、加藤さんの発言における「エンファクトリーにおける副業」は「複業」と表記する。

加藤 単なるお小遣い稼ぎのアルバイト、といったものではなく、自分の人生を考えて「生きるを、デザイン」する中で、「趣味を仕事につなげたい」「将来のためにスキルを身につけたい」「起業に挑戦したい」など、「生きる力を高める」ことを応援する、そのための機会提供をする、というのが「複業」に関しての会社側のスタンスです。

 いま、企業と個人との関係性は大きく変わってきています。社内で決められた仕事を行うばかりではなく、社内外の多様なメンバーと共にプロジェクトベースで働く、といった機会も増えてきています。そうした場で活躍するスキルを身につけるためには、会社の中で与えられた仕事をするだけでは限界があります。「生きる力を高める」ためには、より自律的、主体的に自己開発を進めていく必要があるのです。ところが、人は「学ぶ理由」がなければ学ぼうとしません。だから、企業は社員の自己開発を促すために、「学ぶ理由」を見つけるための興味喚起・興味開発をする必要があると考えています。そして、「学ぶ理由」にもつながり、自己開発にもなるのが、「複業」です。自己開発を促す施策という意味では、「複業」は人材開発の一環と考えることもできます。

 副業を推奨することで、社員の自律的、主体的な自己開発を促すと加藤さんは話す。だが、本業に支障が出てきてしまう人はいないのだろうか。また、副業を行っている人、行っていない人との間に不公平感が出てきてしまい、社員同士がぎくしゃくしてしまうことも考えられる。副業を推進する企業の中には、短時間勤務や週3日勤務など、働き方を自由に選べる制度を設けているところもあるが、エンファクトリーには、何か特別な勤務制度や給与体系があるのだろうか?

加藤 「複業」をやっているから勤務時間を短くする、仕事の量を減らす、といったことはありません。もともと裁量労働制か、そうでなくてもコアタイムなしのフルフレックスですし、リモートワークも可能ですので、そもそも、時間の縛りはありません。業務に支障が無いように、チームや関わっているプロジェクトメンバーの間でしっかりとコミュニケーションを取り、きちんと仕事ができていればOKということです。給与体系なども「複業」の有り無しで一切変えていませんし、もちろん、評価にも全く関係ありません。「複業」をしていても、していなくても、本業においては全員一緒。それを変えてしまうと、本末転倒になってしまいます。「複業」は、自分の人生のデザインをどうするか、という話であって、仕事以外のプライベート時間にデートに行こうが、家族と過ごそうが自由であることと同じです。仕事以外の時間に自分のやってみたい仕事をする、(エンファクトリーは)それを応援する、要は大人扱いをする――ただそれだけのことです。