挑戦的な仕事経験を人材の成長に役立たせるために
ここで「経験」についてまとめてみよう。
経験とはモーガン・マッコール等が修羅場体験と述べ、金井先生が一皮むけた経験と称しているように、「個人にとって挑戦的な仕事」である。すなわち、経験したことのない難しい仕事に挑戦すると、これまで身につけてきた知識やスキルが通用しない場合が多く、新しい知識やスキルを身につける必要が出てくるために成長に結びつきやすくなる。また、挑戦的な仕事をこなすと、さらに難しく良質な仕事経験を上席から付与される可能性が高くなる。このような仕事に対して、個人が主導権を握り、積極的に関わるときに、仕事経験は良質な教材になるのであろう。
経験についての研究知見をまとめてきたが、挑戦的な仕事経験が人材の成長に役立つという考え方を現場で活用するためにはいくつかの課題がある。
まず、経験する本人側の課題である。個人が成長し、キャリアアップするためには上述したような良質な経験が必要であるが、良い経験が簡単に現場に転がっているわけではない。組織人である以上、仕事は上司によってアサインされる。良い経験を獲得するためには個人が周囲に働きかけ、自分に良い経験がアサインされるように働きかける必要があるのだ。
次に、マネジャー側の課題である。マネジメントする部門のパフォーマンスを最大化するためには、部門に所属する個人の成長が欠かせない。しかし、現場に部下の成長を促す適当な仕事があるわけではなく、当然、部門のルーチン業務をこなすためにやらなければならない仕事も存在する。そうした中で、どのようにして部下の成長につながる仕事をアサインするかは、マネジャーにとって大きな課題となる。
そして、人事部門の課題である。特に将来の組織を背負う経営幹部を早期に見抜き、良い経験を与える必要がある。しかし、多くの企業において、社内のどのような仕事が経営幹部を養成するような良い仕事なのかが分析されていない。