個人が良質な経験を手に入れるための3つの方法

 では、仕事経験を良質な教材にするための、本人の課題・マネジャーの課題・人事部門の課題を解決する方法をそれぞれ考えてみよう。

 まず、個人が良質な経験を手に入れるためには、どのような行動を取ると良いのだろう。

 第一に、3年後の自分のキャリアビジョン(なりたい自分)を自分自身で明確にする必要がある。そのうえで、キャリアビジョンを実現するために現状の自分に何が足りないかを検討し、成長目標を設定したい。そうすると、その成長目標を実現するためにどのような仕事に取り組めば良いかが明確になる。自分が取り組むべき仕事経験が明確になれば、上司にアピールすることで自分にとっての良質な経験が手に入れやすくなるだろう。

 第二に、良質な経験を手に入れるためには個人のマインドセットも重要であろう。そもそも、成長しようという気持ちがない人間にマネジャーも成長に結びつく良質な経験をアサインしにくい。ここで着目すべきなのがスタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授のマインドセットに関する考え方である。ドゥエック教授によると、仕事に対する目標志向性は、「業績志向」と「学習志向」に大きく分けられる。「業績志向」が強い人は、自分の能力について好ましい評価を得る、あるいは否定的な評価を避けることによって自分の能力を実証しようとする。つまり、他者より承認されたい、褒められたいという気持ちが強く、そのために高業績を残すことに意欲を燃やす。一方、「学習志向」が強い人は、新しいタスクに挑戦し、スキルをマスターすることによって能力を開発しようとする気持ちが強い。そのような人は、他人の評価に左右されず、自分が成長したいと思い、その経験から成長できることや視野が広がることなどにワクワクする。すなわち、「業績志向」が高い人は、自分の評価を下げる可能性がある挑戦的課題を避ける可能性がある。それに対して、「学習志向」が高い人は、失敗は存在しないと考える。短期的に見ると、当然、失敗は存在する。しかしながら、何かに挑戦し、仮にそれがうまくいかなくても、全てが自分の経験となって成長につながるのなら、次の仕事の成功につながると考えるのである。マネジャーは難しい課題にイキイキと取り組んでくれる部下に、良い仕事経験を与えやすくなるだろうし、私の研究の中でも、高業績社員は学習志向が高い人のほうが多い。

 第三に、米国の組織行動論の研究者である、エイミー・レズネスキーとジェーン・E・ダットンによって提唱されたジョブ・クラフティングの考え方も、個人が良質な経験を手に入れるための参考になる。東京都立大学の高尾義明先生によると、ジョブ・クラフティングとは、働く人たち一人ひとりが、自らの仕事経験を自分にとってより良いものにするために、主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えていくプロセスのことである。そのうえで、ジョブ・クラフティングは業務の内容や方法などを変化させる「業務クラフティング」、他者との関係性の質や量を変化させる「関係性クラフティング」、仕事に関わるものの見方を変化させる「認知的クラフティング」に整理されている。

 特に若手社員のうちは「MUST(やるべき仕事)」が優先順位の上にくることが多い。しかし、このMUSTに「私ならこうした方がよい」という「WILL(やりたいこと)」のエッセンスを加えることによって仕事を自分ごと化することが、若手社員のうちは重要であろう。主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えることにより、その仕事が良い仕事経験になる可能性がある。