多様なメンバーで行う“モジュール化”と“フレーム化”

 自分のペースで、自分だけの判断で行えている業務ほど、「モジュール化は困難で、意味がない」と思いがちだが……。

田原 業務の内容を洗い出し、モジュール化することは、どんなものでも決して難しいことはなく、誰にでもできます。ある企業では、50人が一堂に会して自分の業務のモジュール化を行いました。社内のいろいろな方がいらっしゃったので、まとめ役の方は「みんなができるのだろうか?」と心配しましたが、ほとんどの社員が楽しんで取り組みました。暗黙知の共有に消極的な社員もいましたが、みんながディスカッションしているのを傍で見ているうちに、自分のノウハウを付箋に書き始め、最後には、全員一体となって、私の声が聞こえないほど、盛り上がりました。

 自分ひとりではうまくできないことも、多様なメンバーで知恵を出し合えば、結果が変わるようだ。

田原 業務のモジュール化とフレーム化、そして、ナレッジ・ミーティング の場では、知の創発を起こすため、多様なメンバーの参加が理想です。業務が個人で完結している組織は、自分一人で自分のモジュールを書き出すことになりますが、まったく別部門のメンバーに、異なる視点から、「なぜ、そうやっているの?」と質問されることで“気づき”が生まれ、暗黙知の形式知化がみんなの力でなされていきます。

* 開催頻度や時間を問わず、「フレーム&ワークモジュール」メソドロジーにおける3つの図などをもとに、組織内全員の知恵を共有化し、さらに高度な知恵を絞り出すためのミーティング。

 “暗黙知の形式知化”が、人材・組織・企業をぐんぐん育てて強くする

「あの人は仕事のセンスがいいから……」などと、仕事のできる・できないを、「センス」という言葉で片づけてしまうこともあるが、業務の見える化や暗黙知の形式知化によって、感覚的に仕事の良し悪しを語ることも減っていくのではないか。

田原  “センス”の有無で片づけてしまうと、仕事のできない人はできないままで終わってしまいます。KWリストで業務手順がしっかり示され、その思考プロセスが可視化できていれば、“できない人”にも、どうすればよいかの判断ができるようになります。「なぜ、それをするのか? 次の手順では、どう考えればよいか」がわかることで、気づき・考える人材が育成でき、感覚に依存しない仕事が行えます。暗黙知が形式知化されていない状態で新人に業務を教えるのは、「耳で聴いたメロディを楽器で奏でなさい」と言うようなものです。演奏初心者には楽譜が必要で、楽譜に記された音符や「ここは大きく、ここは小さく」といった記号によって、メロディを再現できるようになるのです。

 一方、どんなにノウハウや知見が共有されても、広告のコピーライティングや特許開発など、特定の個人にしか成し得ないものや暗黙知もあるのではないか?

田原 そのクリエイティブがなされた「思考のプロセス」に潜む暗黙知を形式知化すれば、ある程度、別の人でも可能になります。クリエイターのさまざまな思考プロセスを、モジュール化し、書き出して言語化していくのです。「フレーム&ワークモジュール」のメソドロジーに賛同してくださっている有名調理学校の先生が「海外の大使館での日本料理は、ほとんどが(日本料理と馴染みの薄い)外国人シェフによって、味が再現されている」とおっしゃっていました。プロの味付けという暗黙知も形式知によって再現できるのです。