「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。
本記事では、なんと800ページ超のボリュームを誇る同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。
「OECD諸国平均」を下回り、
紛れもない「低賃金国」となった日本
世界の主要国は、1996年からの25年間で、OECD平均で賃金を31.6%引き上げたが、日本はプラス7.7%にとどまった。
ここまで伸ばせなかった国は、主要国でスペイン(同時期1.1%)とイタリア(8.0%)だけだ。いまや、OECD平均より1万1588ドル(年収で約160万円)も低い、低賃金国へと凋落してしまった。
逆に、失業率はずっと低いまま維持し、2021年は2.8%と、コロナ禍にもかかわらず完全雇用状態となり、これは全38カ国のなかで、チェコ共和国と同率で、最も低い。
雇用を守ることが最重要な政治テーマであることは世界共通であり、そこに異論はない。
日本はリーマンショック後の2010年代を通して失業率が下がり続け、この間、安倍政権は史上最長(7年8カ月)の連続在任期間を記録した。一貫して失業率が下がり、株価も上がったので、ほかにいくつ不祥事が出ようが、政権支持率は高くて当たり前なのである(野党はここを理解していないが、日本政治は「雇用と株価」がすべてだ)。
もっとクビになる人を増やさないと、
日本人の給料は高くならない?
一方で、失業率を低めに抑えたまま、かつ賃金も上昇させた国が、むしろ世界では普通にたくさんあった。日本はむしろ、失業率低下に全振りしすぎて、賃金のほうを犠牲にしすぎた可能性が高い。
《社内失業者を企業に丸抱えさせてまで失業率を下げるのはやりすぎで、労働生産性を下げて賃金上昇を抑えている》という仮説である。筆者の取材では、その仮説は正しいと思っている(※注)。
失業率が低い=解雇が難しく社内失業者を抱えながらワークシェア&賃金シェアする=賃金が低い、という図式が、論理的には成り立つ。これが、日本の実情である、と筆者は考えている。
失業率と賃金水準のマトリックス
となると、失業率と賃金水準はトレードオフの関係があるのでは──との仮説を持って検証すると、実はそんなこともまったくない。むしろ賃金と失業率の両方とも低い「日本、韓国、英国」は少数派だ。
以下図のとおり、勝ち組(失業率が低く、賃金が高い=◎)4カ国と、負け組(失業率が高く、賃金は低い=×)6カ国とに、はっきり分かれたのだった。
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英国はたしかにOECD平均よりは賃金も失業率も低いが、ともに「若干低い」くらいだから、同じ右下のエリアながら、日韓とは大きな差がある。
日韓はともに非正規雇用者が多く(ともに約4割)、賃金の低い、意に沿わない差別的な待遇で働く人が一定数いる(いわゆる不本意非正規)。よって、雇用の数は多いから失業率は低いものの、「雇用の質(賃金・安定)」を犠牲にしているために、平均賃金が上がらないのである。日韓ともに、最低賃金も低い。雇用の量はあるが、質のほうが「安かろう、悪かろう」なのだ。
日本が目指すべき「雇用流動化」とは
安易な「弱肉強食・自己責任」とはちがう
失業率を上げずに高い賃金を実現する(右上)には、アングロサクソン型(弱肉強食でクビになるのも自己責任)は日本ではまったく受け入れられず政治的に実現不可能なので、北欧や独のような、ノルディック型を目指すしかない。
安心して失業し、生活費を公費や失業手当で支給されながら、政府支出による「スキルアップ・バウチャー」(リスキル・クーポン)などを活用し、再就職に有利なスキル──これは絶対に政府が決めてはいけない──を、キャリアカウンセリングに基づいて、自らで選択して身につけ、そこでがんばって(ここが重要!)、「賃金の高い成長産業」に転職する──。
これが、日本人の賃金が全体として上がる雇用の流動化、である。
(本記事は『「いい会社」はどこにある?──自分だけの「最高の職場」が見つかる9つの視点』の本文を抜粋して、再編集を加えたものです)