「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。
「若いうちはガマン」が通用しなくなっている
関東の私鉄・東武鉄道が、若手の人材確保のために、2023年度から初任給を引き上げる。高卒を10%上げて額面20万円、大卒を5%上げて23万円にするという。鉄道会社のような終身雇用型の古い産業は、《若いうちの低賃金を中高年で回収して生涯で収支を合わせる》という賃金体系になっている。
しかし、成長が30年も止まって少子化が進む日本で、30年後に払うから、と口約束されてもなんの保証もないので、それを敏感に感じ取った若者が逃げ始め、採用できなくなってきたのである。
日本企業は厳しい解雇規制によって終身雇用を実質的に義務付けられているため、企業は倒産寸前の状況にでもならない限り、大卒なら22歳から60歳までの38年間を雇用しなければいけない。《60歳になれば問答無用で正社員としては解雇してOKです、ただしその後も年金受給が始まる65歳まではなんらかの職をオファーするのが義務です、70歳までは「努力義務」なので努力だけすればOKで結果は問いません》というのが、現状の法律である。
古い日本企業の給料は
依然として「後払い(PayLeter)型」
戦後に成長を遂げた古い日本企業は、PayLater(後払い)型の報酬カーブとなっている。終身雇用を大前提に置くと、仕事の成果とは無関係な「生活給」方式が合理的だからだ。
子どもの教育費や住宅ローン負担が重い40代以降に高い賃金になるように給与制度が設計され、その分、若い20代30代が、実際の仕事の成果よりも低い賃金で我慢する──という世代間賦課制度になっている(下のグラフ参照)。若者が年寄りを支えるという点では、日本の年金制度と同じである。
職人と違って、サラリーマンの仕事は名刺の力でやるものだから、3年もやれば誰でもそれなりに一人前にできるものばかりだ。特別な才能がないとできないような難しいものなど、ほとんどない。にもかかわらず、業界によっては「いずれ上がるんだから」という暗黙の了解のもとで、若手の給与水準を意図的に低く抑えている。
ところが、23歳が40代になる20年後に会社がそのまま維持できているかは「時の運」なので、とりっぱぐれる可能性があり、ギャンブル性が高まっている。日本一の売上を誇るトヨタ自動車でさえ、急速なEV化で激変する20年後は、どうなっているか誰にもわからない。JALはリーマンショックの影響で2010年に倒産し、パイロットもCAも事務職も、人員削減の対象となって整理解雇された。業績が悪化せずとも、自身の都合で転職する可能性も高い。