メンタルダウンの当事者を1人ずつ減らしていく

 佐々木さんは、メンタルダウン当事者の個々の状況を深く見つめながら、企業側の事情や考え方を念頭に置いたメンタルヘルス対策を提案している。そのツールのひとつが「自己認識を強化するメソッド11」だ。当事者向けでありながら、人事担当者も知っておくべき内容になっている。

佐々木 「自己認識を強化するメソッド11」は、ハートフルデイズを立ち上げるまでの、私自身がメンタルダウンで苦しんでいた時期の経験やいろいろな方からいただいたアドバイスをもとに作ったものです。言うなれば、“佐々木貴則が元気を回復したメソッド”。メンタルダウンしている方は、自己認識が弱くなっていて、「自分は何者なのか? 仕事にどう向き合うべきなのか?」を考えられなかったりします。さらに、ノウハウ本に書いてあることやお医者さんの話が自分自身の仕事内容とリンクしないことが多い。ですから、「メソッド11」は、どんな業界のどんな職種の方にもあてはまるような、自己認識を強化するための普遍的な方法をまとめています。実は、ハートフルデイズの仕事を通じて出会った方に、「(佐々木さんは)元気そうに見えるけど、どうやってメンタルダウンを防いでいるのですか?」と聞かれることがあって、「○○や□□を心がけています」と伝えると、「それがまとまっていれば、みんなの参考になります」と――そうした経緯で作ったものです。

 たとえば、メソッドのひとつである「困った時には助けを求める」は、人に迷惑をかけることは決して悪いことではないと考えたうえで他者に助けを乞うてみるというもの。そうすることが自分一人で解決するよりもストレスを溜めませんから。

 現在もメンタルダウンの当事者であり、病状が悪化していた7年間は、引きこもりやアルバイトの離退職を繰り返し、大手企業の障がい者雇用枠での職務履歴もある佐々木さん。ハートフルデイズの代表としての心構えやこれから先のビジョンはどういったものか。

佐々木 仕事でメンタルダウンしそうな方、現在メンタルダウンしている方が1人でも減ってほしいと願いながら、人事コンサルタント業を続けています。ハートフルデイズは、そうした方々を“地道に1人ずつ減らしていく姿勢”です。働く方が1人メンタルダウンすると、その家族や周囲など、哀しんだり、困ったりする方が少なくとも5人は出てきます。配偶者、お子さん、仕事の上司・部下・同僚、親しい友人……。つまり、メンタルダウンする方を1人減らせば、5人くらいを助けることができるのです。10人で50人、100人で500人。そう考えれば、私の力で“地道に1人ずつ減らしていく”姿勢も無駄ではありません。また、ご相談いただく企業に対しては、先ほど申し上げた “根本的解決方法”の手段をきちんと提案し、そのお手伝いをさせていただきます。

*当インタビューは、新型コロナウィルス感染症に対する万全な予防対策のうえに行われました。被写体は、撮影時のみマスクを外しています。