判決後数カ月たった頃、大介は山本さん宅に押しかけてきて「麻美ー、迎えに来たぞー」と叫び続けました。あれほど怖い思いをしたにもかかわらず麻美さんは、事件の重大さを理解しておらず、なぜか大介が呼んでいるからと素直に出て行こうとするのです。山本さんはなんとか麻美さんを抱き押さえて警察に通報しました。大介は再び連行され覚醒剤使用の余罪も発覚し刑務所に入れられることになりました。
穏やかな日々
再び家出をした女性
山本さんは、大介は麻美さんの結婚相手ではなく、大介がしたことは犯罪であり、もう会ってはいけないこと、知らない男性に決してついていってはいけない、と根気よく説明しました。その後、麻美さんは知らない人にはついていかなくなりました。しかし、穏やかな生活が戻ったと山本さんが安心していた頃に、また麻美さんが家出をしたのです。
これまでに何度も麻美さんは家出をしてきましたが、その目的は山本さんにも理解できていませんでした。家にいるときはご飯をおいしそうに食べ、テレビをニコニコ見て、つたなくも今日あった出来事を話してくれる娘でした。不満の気配さえ感じないくらい普通に暮らしていると山本さんは思っていました。それでも麻美さんは家出をするのです。
山本さんは必死に近所や立ち寄りそうな場所を捜しましたが、5日たっても麻美さんは見つかりませんでした。大介はまだ刑務所で服役中です。今度は警察も必死に捜してくれてはいるのですが、目撃証言や手がかりすらつかめないでいる状況です。
万策尽きた山本さんは友人から探偵に相談することを勧められ、私の電話が鳴ったのです。山本さんは知り得る限りの情報と、近所や親戚や麻美さんに縁のある人たちには全て連絡を取り、麻美さんが徒歩で行ける範囲内はできる限り捜したが行方は知れず、「どこかで死んでいるのではないか?」という想像で頭がいっぱいになり、どうにかなってしまいそうだと、か細い声で話してくれました。
私は山本さんから話を聞く中で、今回の人捜しの案件は「受動的理由」だと判断しました。麻美さんに目的はないが、人なのか動物なのか、何かしらの要素に引きずられて家から離れていき、帰り方が分からなくなっているのだと想定しました。受動的な家出は捜すのがとても難しく、これまでの麻美さんの行動から改めて立ち寄りそうな場所を2日間かけてくまなく捜しましたが、目撃情報さえも得られませんでした。