思わぬ場所で目撃情報が
女性の目的とは?

 再度考え得る可能性を探り、まさかとは思いましたが念のため、大介が収監されている刑務所への行程をたどってみたのです。その刑務所は隣の県境にあり、道すがら聞き込み調査をしましたが情報は得られませんでした。ところが刑務所付近で聞き込みをしたところ、近くの公園に数日前から寝転がっている若い女性がいるという情報を得て、その公園に向かいました。東京ドーム3つ分くらいある大きな公園を捜索し始めて2時間ほどで大きな滑り台の下で寝ている麻美さんを発見しました。多少衰弱しているものの意識はあり、話もできる状態でした。すぐさま山本さんに報告し、私が乗ってきた車に保護しました。

 山本さんが到着するまでの間、麻美さんから数日間の行動を聞いてみると、大介が友人を介して麻美さんのスマホに一方的に連絡をしてきて、「刑務所から出るので迎えに来てほしい」と言われ、電車を乗り継いでここまで来て、大介が出てくるのを待っていたそうです。公園で見つけた残飯で飢えをしのぎ、公園の水道水で喉の渇きを潤していたそうです。なぜ大介のためにこんなことをしたのか聞くと、「おむかえにきてって、でもいやだから、いけないっていおうと」。

 山本さんの話では麻美さんはほとんど話を理解していないとのことでしたが、今回においては理解しているばかりか、素直に気持ちを表現し、勇気を振り絞って誠意ある対応を選択した結果の行動だったのです。また麻美さんにとっては家出ではなく、気になった人や動物に興味を引かれてその方向に行っているだけという認識のようでした。

 麻美さんのような受動的かつ能動的な家出は、警察の捜索力を持ってしても見つけることは難しく、“まさか”自分の脅威である対象に会いに行くなど普通は予想すらできません。私は他に要素が見当たらず、“もしかして大介のところ?”というごくわずかな可能性に賭けただけでした。

 今回、麻美さんを無事に見つけられたのはただの幸運でした。山本さんと同じような悩みをお持ちの方に対応策を提示できるとすれば、“ここだけは絶対行かないだろう”というのは客観的な見方でしかなく、その場所こそ念のため捜してみることをお勧めいたします。

「“まさか”を“もしかして”」と「考えて捜索する探偵」。点と点が線になる探偵トークでした。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。