楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が、携帯電話事業の巨額赤字の圧縮に向けて緊急対策に乗り出したことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。「0円廃止」で解約が相次いだ携帯電話契約の回復を狙うとともにコスト削減を強化する。だが、そこには携帯事業者としてご法度ともいえる「禁断の策」が盛り込まれている。特集『楽天 解体の序章』(全6回)の#1では、社内文書や楽天グループ関係者の証言により、その全容を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
三木谷総帥が「朝会」で激高
年末年始の社員ノルマを徹底
2022年12月20日午後1時過ぎ。東京都世田谷区の楽天グループ本社で開催された携帯電話子会社楽天モバイルの「朝会」に登壇した三木谷浩史会長兼社長は、集まった社員を前にいら立った表情を見せていた。
「年末の契約が足りない。“紹介キャンペーン”の数字が全く伸びていないからだ。この上は、年末年始の冬休みを利用して家族や友人からしっかりと契約を取ってくるようにしてもらいたい」
怒気を含んだ声が響き渡り、会場に緊張が走った。楽天グループでは毎週月曜日の朝8時から1時間、グループ社員を対象にした朝会を開いている。そして楽天モバイルの朝会は、毎週火曜日の午後1時が定例会議である。携帯電話の技術部門が拠点を構えるインドの朝に合わせて朝会と呼ぶ定例会議での出来事だ。
三木谷氏のスピーチの後は、社員からの質問タイムが恒例だ。だが、その日の三木谷氏は司会のスタッフの進行を制止して、不機嫌なまま足早に会場を後にした。
三木谷氏が怒りをぶつけた“紹介キャンペーン”とは、楽天グループの社員・契約社員に課している携帯電話の契約獲得ノルマのことだ。
関係者によると、楽天モバイルの日本人スタッフには、22年11月30日から23年1月9日までに1人当たり5回線の契約獲得を義務付けている。元々12月末を期限に1人4回線のノルマだったものを延長して割り当てを増やした。国内に親族、友人が少ない外国籍社員にも1人2回線のノルマを課した。楽天総出で契約獲得にまい進する運動である。
楽天モバイルの社員数は22年1月時点で約4600人。業務委託契約社員を入れるとさらに多いが、単純計算で社員が1人5回線を獲得すると仮定して2.3万件の契約に相当する計算だ。
楽天は「月間1ギガバイト(GB)まで0円」の料金プランの打ち切りを22年5月に発表して以降、ユーザーの解約が止まらず、同年3月末に491万件に達した契約数は9月末に455万件まで減少した。
22年11月から0円プランは完全有料化に移行することになり、一段の契約減少が懸念される中、反転攻勢に向けて三木谷氏が打ち出したのが、グループ社員への契約ノルマだったのだ。
しかし、半年で失った36万契約を取り戻すには社員の家族や友人を集めるだけでは追い付くはずがない。三木谷氏のいら立ちから察するに、12月下旬になっても契約獲得に目立った成果が得られなかったようだ。
契約数を伸ばすことに加えて、楽天の喫緊の課題は携帯電話事業の巨額赤字の圧縮にある。
次ページでは、苦境の楽天が打ち出した「緊急対策の全貌」を明らかにする。その目玉として示されたのが、携帯電話会社としては“禁断”ともいえる施策だった。社員も驚愕した施策とはどんなものだったのか。