楽天 解体の序章#6写真:つのだよしお/アフロ

楽天グループに1500億円を出資した日本郵政は、三木谷浩史会長兼社長にとって“救世主”だった。コロナ禍の巣ごもり需要が一服した後も「楽天市場」は快走している。携帯電話事業の巨額赤字に苦しむ三木谷氏は “次なるスポンサー探し“で、その成功体験を再現できるか。特集『楽天 解体の序章』(全6回)の最終回では、郵政との提携で楽天が得た計り知れない”果実“の実像に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

楽天市場「当日配送など不可能」
日本郵便との物流提携効果は見えず

 日本郵便と提携して「当日配送」を開始したい——。

 2022年7月21日 に東京都内で開催された楽天市場の出店者向けのイベント「楽天EXPO」。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、日本郵政グループ(以下、郵政)との提携の成果として「『あす楽』を通り越して『きょう楽』ができるところまで来ている」と訴えた。

 三木谷氏は21年3月に、郵政の増田寛也社長と共同会見を開き、1500億円の出資を受け入れると発表したが、その提携効果は全く見えてこない。ここにきて、アマゾンジャパンに勝る配送スピードを実現できるならば、大きな成果になるのは間違いない。

 楽天グループは、楽天市場の出店者向けに「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」という物流サービスを提供しており、その運営を物流センター「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」が担っている。

 三木谷氏が強調したのは、RFCから郵便局への直送が始まったことだ。配送が効率化されたことで、当日配送の実現も近いというアピールだった。

  それから5カ月。楽天市場上で、商品が「きょう楽」で配送されるという表示は見当たらない。ある出店者は「最初からできもしないことを三木谷さんは言わない方がいい」と声を潜める。

 楽天市場で店舗を経営するこの店主はRSLのサービスを契約する当事者だ。楽天市場のセールで取引が増えるたびに処理が追い付かずに“配送遅延”が頻発しており、「当日配送どころか翌日配送も守れていない」のが実態だという。

 この店主によると、最近の配送遅延で目立つのは「入荷時点での遅延」だという。倉庫への入荷については、日付と数量を店舗がシステムに入力するが、予定通りに商品が届かず楽天市場の自社サイトで「在庫切れ」の表示なってしまうことが多い。

 この場合、機会ロスを防ぐため手動で『在庫あり』に切り替えて注文を受け、別に保有する自社倉庫で自ら梱包して配送することになる。ちなみに、「翌日配送を死守するために配送業者へ払う追加料金は出店者側の自腹になる」(同出店者)という。RSLのサービスで実現するとされる「あす楽」は、このような出店者の犠牲で成り立っているようだ。同出店者が「楽天市場で『きょう楽』なんて夢のまた夢」と憤慨する言葉には説得力がある。

  これまでのところ、楽天と日本郵便の物流提携は、楽天市場の出店者に全くメリットがない。

   RSLを利用する楽天市場の出店者は22年12月時点で6000店舗を突破したが、5万6895店舗(22年9月末)の10%を超えた程度。楽天市場の注文のうちRFCから出荷するのは全体の2割程度にとどまる。いまだ楽天スタッフがRFCのオペレーションを担っており、物流センターの運営は提携前と変わっていない。配送の部分で日本郵便の配送網の活用が期待されたが、その荷物が増えている気配はない。

 だが、郵政との提携を楽天側から見れば景色は大きく変わる。次ページでは、三木谷氏が手に入れた“大きな果実”の中身を解説する。一方の郵政側には旨みがなく、郵政が楽天の「打ち出の小槌」へと成り下がった理由も明らかにしてゆく。