『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、国際主義の理想を説く西側諸国の左派が抱える深刻な問題点と生き残る道です。長年の迷走に終止符を打ちたいならば、イラン全土で立ち上がる女性たちや学生たちの闘いに目を向け、連帯すべきだと説きます。
でたらめで一方的な嫌がらせへの対処は決して容易ではない。だが、さらに難しいのは、でたらめで一方的な称賛への対処ではなかろうか。
先日アテネで乗ったタクシーの運転手はナチスの信奉者だった。彼は(ネオナチの極右政党)「黄金の夜明け(Golden Dawn)」に投票したと言い、こう続けた。「あなたのことを尊敬している」と。どうせなら、腹にパンチを食らった方がましだった。
実は過日、ウクライナ和平実現に向けたハンガリーの極右ビクトル・オルバン首相による提案を読んだときも、同じような虚脱感に襲われた。ロシアのプーチン大統領による忌まわしい侵攻が始まって以来、私が提言してきたことと大差ない内容だったからだ。「黄金の夜明け」支持者とは違って、オルバン首相は私を直接称賛したわけではないが、嫌悪感は同じだった。
ここ数年、私は計り知れないほどの不快感を抱いてきた。私が少なくとも部分的には共感を覚えた分析を示してきた人々が、突然、ファシストの反ユダヤ主義者、時代遅れのスターリン主義者、非常識なリバタリアン(自由至上主義者)、さらに最近ではトランプ主義者の正体を現したからだ。
銀行の不正行為を暴露した素晴らしい論文は、卑劣なユダヤ人攻撃へと成り下がった。(19世紀後半の)初期金融資本主義の金ぴか時代(Gilded Age)への批判は、スターリン賛歌へと変わった。中央銀行が私たちの貨幣を無責任にもてあそぶ傾向に対する科学的な分析の結論が、マネーの脱政治化という危ういリバタリアンの発想を思い起こさせる、奇妙な暗号通貨の提案になった。
最後に、と言ってもその重要度では少しも劣らないのだが、「リベラル」な帝国主義、つまりリベラルな支配層がブルーカラー労働者を侮蔑する状況に対する極めて正当な非難が、国境に「壁」を建設し、褐色の肌の人々を追い出し、連邦議会に侵入しようという呼び掛けになってしまった。