ツイッター騒動に隠れたマスク氏の野望、テクノロジー封建領主への道ツイッター買収はマスク氏が「テクノロジー封建領主」になるために必要だった?Photo: Reuters/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、ツイッターを買収したイーロン・マスク氏の野望です。ユーザー投票結果を受けたトップ辞任示唆などで世間の耳目を集めていますが、派手な言動の裏には「テクノロジー封建領主」を目指す深遠なプランがあるはずだと分析します。

 イーロン・マスク氏が満たされぬ思いを抱いてツイッターを440億ドル(約6兆円)で買収したのは、無理からぬ話だ。彼はオンライン決済の先駆者であり、自動車産業を根底から覆し、宇宙旅行に革命を起こし、人間の脳とコンピューターの間で野心的なインターフェースを試みている。

 マスク氏はテクノロジーの最先端分野での偉業により、世界で最も裕福な起業家となった。だが悲しいかな、それだけの業績や資産があっても、クラウドベース資本という権力を握っている新しい支配階級への仲間入りは許されなかった。彼にとって、巻き返しの機会となるのがツイッターだ。

 資本主義においては、その黎明期以来、資本財を保有することが権力の源泉だった。蒸気機関、ベッセマー転炉、産業ロボットなどである。今日、かつては想像もできなかったほどの権力を与えているのは、クラウドベース資本(以下、略してクラウド資本)である。

 アマゾンの例を見よう。同社には、ソフトウェア、ハードウェア、倉庫、そして各家庭のキッチンカウンターに置かれて私たちと直接のインターフェースとなるデバイス「アレクサ(Alexa)」で構成されるネットワークがある。アマゾンとは、従来のいかなる広告主よりも深く私たちの感情を読み取る能力を備えたクラウドベースのシステムだ。個々のユーザーに合わせたエクスペリエンスは、私たちが反応を示す際の先入観を利用する。私たちが示した反応に対して、アマゾンは独自の反応を生成する。私たちはそれに対してまた反応し、強化学習アルゴリズムが鍛えられ、さらに一連の反応が派生する。

 旧式の地上的な、あるいはアナログな資本は、要するに消費者が望むものを製造するための生産手段に帰着していた。クラウド資本は違う。その資本の所有者の利益に合致するように人々の行動を修正するための生産手段として機能する。データセンターや光ファイバーケーブル、携帯電話の中継タワーといった迷宮で動いているものと同じアルゴリズムが、多数の同時多発的な奇跡を演じている。

 クラウド資本が起こす最初の奇跡とは、人々を無報酬で働かせる点だ。私たちがクラウド資本のインターフェースを使って生み出しアップロードするテキストやレビュー、画像や動画は全てクラウド資本の在庫を補充し、生産性を向上させている。

 こうして、クラウド資本は何億もの人々を「クラウド農奴(cloud serf)」へと変容させてきた。私たちは、地主の「デジタル荘園(digital estate)」をせっせと耕す無報酬の生産者であり、封建時代の小作人が信じていたように、自分の労働(写真や意見を生み出し、シェアすること)が自分の本質の一部だと信じている。