クラウド資本競争に乗り遅れた欧州が直面する「脱工業化」の厳しい現実米国のクラウド資本に圧倒される欧州の状況は、日本にとっても人ごとではない Photo:AP/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、「ディインダストリアライゼーション(産業の空洞化、脱工業化)」です。欧州、特にドイツで今後起こることは工場の域外移転加速というよりも、米国のクラウド資本にこれまで以上に依存する製造方式採用に伴うリターン減少だと指摘します。日本にとっても人ごとではありません。

 欧州の産業界は、「双子の脅威」の下で揺らいでいる。すなわち、エネルギー価格の高騰と、ジョー・バイデン米大統領によるインフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act)だ。

 実質的にこれは、欧州のグリーン産業を米国に移転させるための賄賂のようなものだ。欧州産業の中心地帯は、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と化してしまうのだろうか。ドイツは英国が苦しんだトラウマと同様に、工場が閉鎖され、製造業ベースの高度熟練労働者が、熟練度も生産性も、おまけに賃金も低い雇用に甘んじることになるのだろうか。

 こうした脅威は、欧州政界の中枢でも反響を呼んでいる。オラフ・ショルツ独首相はいち早く反応を示し、移転誘致を狙った米国の補助金に対抗して、欧州連合(EU)企業に対し公的支援を提供する新たなEU基金の創設を提案した。

 とはいえ、何らかの財源を確保するために欧州共通債の発行が必要となる場合は特に欧州の動きが鈍くなることを考えれば、EUが提供する補助金が、迅速かつ十二分に米国の補助金に対抗できるかは疑わしい。

 何が焦点になっているのか、分かりやすい例がドイツの自動車産業だ。