そのほかに医者が認知症で役に立つのは、本人や家族の不安にアドバイスをしてくれたり、ほかに相談するところを紹介してくれたりすることでしょう。しかし、そういう医者は少なく、看護師さんや相談員のほうが話を聞いてくれるかもしれません。
つまり、認知症の状態になると役所や家族が「病院へ行け」というのは、病名をつけてもらうためで、治すためではないと思ったほうがいいということです。
それでは、認知症の進行を少しでも遅らせるためにはどうすればいいのでしょう。
ただ老いを待つのではなく
能動的にセルフケアを考える
認知症は、キュア(治療)からケアへという流れの最前線にある疾患です。ケアというのは、世話や介護と訳されますが、手入れや寄り添うことも含まれる大きな意味があると考えてください。
セルフ・ケアは自分のことをいたわることであり。セルフ・ネグレクトは自分へのいたわりを放棄したという意味になります。
ケアは、単に介護を受けるという受動的な意味ではなく、自分をケアしていくという能動的な意味でもあり、ケアをされる人との交流も含む流動的な意味合いもあります。
医療のキュア(治療)が望めないとなると、認知症は不治の病かと怖がる人が多くいますが、認知症の症状が出るのは長生きした人間の当然な結果なのですから仕方ないことです。
90代でも研究をしたり文章を書いておられるすばらしい方もいますが、そういう人でもたくさんのケアを受けて仕事をしていることが多いのです。物忘れはひどいし、いまのことも忘れる等の困難さはあっても、家族やヘルパーさんに支えられて仕事をしている人もいます。
このように、認知症になっても心豊かに暮らす方は大勢います。
自分なりの人生をどう送りたいか、認知症と診断されても初期のうちでしたらどんな意思表示だってできます。それ以上に、認知症は85歳になれば半数近くの人が罹患する病気なのですから、その後、どんなふうに生きたいかを決めておくほうが納得のいく人生を送れる可能性は高くなると思います。
まだ認知症の症状がないあなたが考えないといけないことは、認知症になったらどういうケアをしてもらいたいか、自分はどういうケアを自分に対して行っていくかです。