最適な介護施設選び&老人ホームランキング #7

特別養護老人ホーム(特養)の開設は全国的には足踏み状態だが、都心はこれからが本番。東京でも西多摩地区では、入居者の確保に苦しんでいる。このままでは、定員割れが続出する23区内の保育園の二の舞いになりかねない。特集『最適な介護施設選び&老人ホームランキング』(全21回)の♯7では、都心で急増する特養の光と影を追った。(介護・医療ジャーナリスト 長岡美代)

「週刊ダイヤモンド」2022年10月29日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

あきる野市の村木英幸市長(当時)が2度の不信任決議で失職
交付金狙いの特養誘致は見送りに

 特別養護老人ホームの誘致を巡って今夏、東京都あきる野市の村木英幸市長(当時)が市議会から2度の不信任を突き付けられ失職するという、前代未聞の事態が起きた。きっかけは、4月中旬の市広報に掲載された施設の公募記事だった。

「市有地に100床の介護老人福祉施設(特養)を開設する法人の申し出を受け付けます」

 村木氏は独断で事業者の募集を始めるや、検査を理由に入院。公募の詳細は担当課にも知らされていなかったという。

 特養については市の介護保険事業計画策定委員会が「施設は充足しており、新たな整備は必要ない」と結論づけ、議会の特別委員会でも新設の是非を検討しているさなかだった。

 さらに、市有地の貸与か売却には条例で議会の議決が必要とされるが、それさえも無視して強行に推し進めようとしたため、「議会軽視。民主主義のルールに反する」と反発を受け、現職の市長が失職に追い込まれることになったのだ。

「いま優先すべきなのは施設整備よりも人材確保だというのが委員会の共通認識でしたが、(前)市長はまったく耳を傾けてくれなかった」と、策定委員会のメンバーで、あきる野市介護事業者連絡協議会の今裕司会長は当時を振り返る。

 人材不足が深刻化する中、新たに施設を造れば介護職の取り合いになるだけだという。とりわけ訪問介護のヘルパー不足は危機的状況で、このままでは自宅で暮らし続けたいニーズに応えられない恐れも出ている。

 そもそも村木氏が特養誘致を目指したのは、市に入る多額の交付金が狙いだった。

 東京都は現在約5万2000床に上る特養を2030年度末までに6万4000床にまで増やす計画で、地域の需要を超えてベッドを確保する自治体に1床当たり250万円を助成している。仮に100床の特養ならば2億5000万円が市の歳入となる。

 福祉目的であれば自由に使える点に目を付けた村木氏は、「都の整備目標に寄与したい」と息巻いていたが、特定の業者に還流させるうわさが絶えなかった。都としても改築に伴う増床への助成実績はあるものの、「新設のために使われることは想定していなかった」(施設支援課長)と話す。

 9月4日に行われた出直し市長選挙には村木氏も出馬したが、新人候補(前市議会議長)に大差で敗れ、ひとまず特養の新設は見送られる公算となった。ただ、“これで解決”というわけにはいかないようだ。

 次ページでは、これから本番を迎える都心における特養開設の実情や、全国の政令指定都市および中核市で続々と明らかになった「広域型特養」の新設凍結の動きなどを詳報する。