ミドル世代が、「探索」行動に向き合えない理由

 繰り返しになりますが、「両利きのキャリア」は、(1)過去から培ってきた知識や経験、スキルを活用する「深化」行動、(2)仕事や私生活における新たな機会や経験・スキル獲得を模索する「探索」行動から生み出されます。この「両利きのキャリア」を志向する上では、「探索」のほうに難しさを覚える方も多いのではないでしょうか。書籍『両利きの経営』に書かれているとおり、「探索」は成果が見えにくく、コストがかかることもあります。

 現在、私は、さまざまな企業の事業創造や人材育成に関するインタビューをさせていただいていますが、そのなかで、大手企業のリーダーとして活躍する中堅社員や主力事業を一手に担う管理職の方々から「担当業務の忙しさや人員不足で“探索”に時間を割けない」「そもそも何を探索したらよいのかわからない」といった声を耳にします。そもそも、人間とは変化を嫌う生き物で、人が陥りやすいバイアスに、現状維持バイアスや近視眼バイアスがあります。こうしたバイアスも「探索」を阻害する要因になります。

 30代40代の、10~20年ほどの間、仕事のキャリアを積まれてきたビジネスパーソンにとって、これまでの仕事のやり方を変えることや、自分の所属組織で良しとされている慣習やスタイル、これまで積み上げてきた知識や経験から離れて、新たな仕事やキャリア、スキル習得に向けて動くことは、人材の流動化が進む昨今においてもなかなか簡単にできることではありません。

 また、仕事のやり方を大幅に変えることなどは、自分だけで判断・決断できることではないと思われる方もいらっしゃるでしょう。ここで注釈を加えておきたいのは、「探索」行動=転職では必ずしもないということです。仕事の「探索」行動は狭い範囲で捉えるものではなく、自分自身のライフキャリア(仕事も学びも遊び)も含めて、「探索」を楽しむことが、キャリア形成において良い影響を与えます。「人生100年時代」と呼ばれるロングジャーニーにおいては、20代30代に築いてきた知識や経験・スキルを活用し、磨き続けることと同じくらい、何の役に立つのかわからない道草や直感に従って動く「探索・探検」も重要であると、私は思います。