本人さえ気づかない
行動の因果関係を指摘
長年、朝日新聞の「仕事力」「あの人とこんな話」などの記事を書き続けてこられたコピーライターの田中ミエさんのベストセラーのエッセイ「ダンナ様はFBI」(幻冬舎文庫)は、初対面の人にアプローチし、わずかの時間で相手を理解する方法論について学ぶことのできる素晴らしい一冊である。
本書は田中さんのご主人が元FBI(アメリカ連邦捜査局)職員であり、そこで身に付けたプロファイリング技術が日々の生活にどう生かせるかが、コミカルに描かれた楽しくも軽妙な読み物なのだが、これが仕事にものすごく役に立つのだ。
田中さんの日常はこのような感じである。
「たとえば、ビジネスで成功した有名な企業家に会うときには、その会社の概要から現在の状況まで調べ、その人が書いた本をなるべく多く読み、どこかで行った講演の記録、社員に向けたメッセージの記録、もちろん詳細な経歴などを頭に入れていく。私生活や趣味なども懸命に調べる」
実際に私がお会いしたときは、成功者とはとても言えないような私自身のことですら、過去の書籍などもほぼ完ぺきに把握しておられ、自分でも気づいていなかった私の個人的な出来事の因果関係を教えてもらって仰天したのであった。
そして、ダンナ様からのFBI仕込みのアドバイスも本書にはあふれている。
「それでもできるだけ、仕込みをいつもきちんとして、自分が思い描いたマップに必要な材料を拾ってこなければならない。仕込みというのはフィッシングで言うところの網のようなものだよね。相手の言葉をたくさん拾えるかどうかは、下調べで作っていく網の細かさによるというのは分かるだろう。網目の細かさは質問によって、相手に見えるんだからね(後略)」。