プロダクトデザインからエクスペリエンスデザインへ

――そもそもデザインを全社変革に活用しようというアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

宇田 社長の時田です。デザインを経営に活用する他社事例にも触発され、全社DXにデザインが不可欠だと強く感じたと聞いています。そこからの意思決定は迅速で、本社から独立して子会社になっていたデザイン組織を、経営により近く機動的なものにする意図で本社に吸収し、20年4月に現在のデザインセンターが発足しました。僕は20年1月に入社し、発足と同時にセンター長に就任しています。

なぜ富士通はDX企業に変わるために「デザイン」を活用するのか Tetsuya Uda
富士通 デザインセンター長

2020年1月より富士通に入社。
デジタルソリューションサービス事業部を経て、2020年4月より現職。
デザインを生業としてこなかった経歴でのデザイン組織長就任は、社内外から大きな注目を集めた。
現在、デザインを活用した同社の事業・組織改革に取り組むほか、オープンエコシステムによる社会課題解決プロジェクトにも携わる。
JEITAデザイン委員会 2022年度委員長 
東京大学先端科学技術研究センター 先端アートデザインAADアドバイザー
人間中心社会共創機構 理事
Photo by ASAMI MAKURA

――宇田さんはそうした役割を担うデザインセンター長としてオファーを受けて入社されたわけですね。

宇田 実は違うんです。僕の前職はエンジニアで、もともとは日系大手企業で光通信システムの開発を行っていました。その後紆余曲折があり、その企業のシリコンバレー拠点でAIを使ったソリューション開発や事業企画などを手掛けていました。富士通には、DX事業の立ち上げなどに携わるということで入社したんですが、その翌月にいきなりアジェンダが変わったと告げられて(笑)。

 結果的に良かったのが、僕がセンター長になることで、デザイン、ビジネス、テクノロジー間の相互翻訳の役割を担えたことです。経営にインパクトを与えようとするデザイン組織が苦慮するのが、デザイン言語とビジネス言語の擦り合わせです。僕のような人間がデザインを理解して経営に橋渡しした方が、逆よりずっと話が早いしスムーズです。またエンジニアとしてのバックグラウンドがあるため、テクノロジーとデザインを融合させるデジタルソリューションなど、事業部の目線でも会話することができます。

――デザインに求められることが変化したということは、デザインセンター自身も大きな変革を余儀なくされたのではないでしょうか。

宇田 組織戦略を考える部署をつくったり、社外のコンサルティング会社からビジネスコンサルタントを新たに採用して論理思考力を高める取り組みを進めたり、社内の他部署からフロントエンドエンジニアを獲得してサービスへの実装力を強化したり……といった組織変革もしましたが、一番大きかったのはデザイナー自身の自己変革ですね。例えば、これまで富士通のパソコンやスマホのデザインをメインで手掛けていたプロダクトデザイナーが、今では、お客さま企業の営業マインド変革とか、技術の上に新たな解釈を加えた製品作りや研究開発ロードマップのデザインなど、得意としている「具象化するデザイン力」を使いながら人やビジネスの変革を手掛けるようになっている。これは大変な変化だと思っています。

――大きな変化ですね。どのように実現したのでしょう。

宇田 以前から組織内部に「自社のプロダクトやサービスのデザインをやっているだけでは社会の変化に取り残されてしまう」という危機感があったんだと思います。また、「デザインはもっと社会課題に貢献する必要がある」という使命感もあったと思います。そこにお客さま企業との変革プロジェクトが始まったわけです。「これをきっかけに自分も新しいことに挑戦しよう」と前向きに捉えてくれた人が多かったのだと思います。待っていても仕事は来ないので、営業と組んでどんどん提案に出ていっていますし、教育プログラムを利用してロジカルシンキングやマーケティングを学ぶことで、お客さま企業の経営層クラスの方々と議論ができる人も増えています。

 加えて、デザイナーとエンジニアの混成チームをつくり、そこでデザインエンジニアリングの手法を用いて、デザインセンター発のサービス開発も始まりました。やはり富士通としては、上位概念として課題を描き出すだけでなく、現場で実行可能な仕組みを実装することやハードウエアとして着地させるという具象化能力も大事にしていきたい。センター内でも「安易に外部委託せず、時間やお金はかかっても手を動かしてちゃんと自分たちで作ろう」とよく話しています。