この体制は「顧客ニーズを叶える商品を自社技術だけで開発できなくても、外部の技術と協力・連携すれば作ることができる」「作りたい商品の技術情報を集めてきて自社で再現できれば、イメージしている商品を開発できる」という考え方を基本にしています。

 つまり、「シーズは世界のどこかに落ちている。だから、それを持ってくればいい」というのがキーエンス流の発想のように感じていました。

 その根底には、「付加価値をつくり出すことが使命である自分たちが研究開発をしていたら、それに固執してしまう。したがって、研究開発は、自分たちが企画した商品のアイデアを形にできる材料や素材、技術を持っている会社に任せればいい」という考え方があるように思えました。

 こうした商品開発方法を、時価総額ランキングでトップを争う会社がやっているのは非常に興味深く、日本のモノ作り中小企業にとって希望となると私は思っています。

書影『付加価値のつくりかた』『付加価値のつくりかた』(かんき出版)
田尻 望 著

 もちろん、「研究開発は自社内で行うべきではない」という話ではありません。自社で研究開発していない、または研究開発の技術がないとしても、日本のどこか、世界のどこかから集めてくれば商品開発できる。その視座を持つと、商品の企画・開発の幅が一気に広がることをお伝えしたいのです。

「お客様のニーズにすべて完璧に応えられる高付加価値商品を作ることは無理」「自社の技術チームにそんな技術力はない」と諦めてしまっている会社があるかもしれません。

 それは大いにもったいない勘違いです。付加価値をつくり出すための技術や情報は、「世界のどこかに落ちている」のです。