
日本は米国との関税交渉で合意に達したものの、“合意通り”の関税率が反映されない状態が続いている。合意通りに関税が引き下げられたとしても日本経済へのダメージは避けられない。特集『成長か腰折れか 緊急調査 トランプ関税の衝撃』(全4回)の#4では、識者9人に日本経済の行方を検証してもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
“合意通り”の関税引き下げは
いまだ実施されていない
「Mr. President, Can I ask one more?」(大統領、もう一つお尋ねしていいですか)
7月22日、赤澤亮正経済再生担当大臣はホワイトハウスでトランプ米大統領にこう問い掛けながら、米国との関税を巡る詰めの交渉を進め、合意に至った。
日本は5500億ドルの追加対米投資を行うほか、防衛装備品を追加購入、さらに米国からのコメの輸入を75%増やし、米国産エネルギーの輸入を増やす。
一方、米国は相互関税を25%から15%へ引き下げ、自動車関税も27.5%から15%へと引き下げる。分野別関税以外の品目でこれまでの関税率が15%未満だった品目の関税率は15%に、15%以上だった品目の関税率はそのままになる。
これが関税に関する合意事項だったが、大統領令に反映されず8月7日の相互関税上乗せ部分の発動時点では、15%の相互関税が従来の税率に上乗せされたままだった。その後、赤澤大臣が急きょ訪米し、8月7日にさかのぼって修正するとの言質を得たが、現時点でも関税を巡る状況は変わっていない。
米国はこうしたトランプ関税の賦課を意識して輸入が増加、2025年1~3月期に実質GDP(国内総生産)成長率はマイナスとなった。ユーロ圏は反対に、駆け込みで対米輸出が増加して同1~3月期の実質GDP成長率は大きく上向いた。
実質GDP成長率を見る限り、日本経済にはまだ大きな影響は出ていない(下図参照)。
25年1~3月期は自動車輸出が増加したものの、輸出全体としてはマイナス。全体の実質GDP成長率は前期比年率換算で0.6%で、24年10~12月期より成長率は低下した。25年4~6月期は輸出全体は増加。設備投資がけん引する形で同成長率は1.0%と上向いた。
コメ価格をはじめとする食料品価格の高騰で、変動の激しい生鮮食品を除く総合の消費者物価上昇率は24年12月以降、前年同月比で3%を超える状態が続いている(下図参照)。
目標とする2%を超える物価上昇が続いているが、日本銀行は7月開催の政策決定会合で政策金利を0.5%のまま据え置いた。25年1月以降、4会合連続の据え置きである。
トランプ関税の行方をはじめとする不透明要因があること、(賃金上昇を背景とした)基調的な物価上昇率はまだ2%に達していないことなどがその理由だ。
現時点では大きな影響は出ていないが、相互関税が本格的に発動されたのは8月7日。トランプ関税の影響が本格化するのはこれからである。ダイヤモンド編集部は、日本経済の識者9人に成長率や物価上昇率、金融政策に対するトランプ関税の影響をアンケートで聞いた。
次ページでは、日本経済の先行きを予測した識者の回答を掲載する。