常に自己更新することで
自分を肯定することができる
田中 布袋さんの最新アルバムのタイトルはまさに『Still Dreamin’』です。布袋さんのライブにお邪魔して、僭越ですが、毎回「今回が一番素晴らしい」と思うのですが、布袋さんのように常に「昨日の自分」を超えようとする意識はどこから来るのですか?
布袋 いつも「最新の布袋が最高の布袋だ」と言い続けているから、その言葉は大変うれしいです。2022年末に行ったライブは、これまでで最高の出来だったので、今後、自分がそれを超えられるのかというのはプレッシャーでもありますし、同時に、目標でもあります。
いいライブをやればやるほど、次回のライブはさらに高みに行ける。自分を更新していくことが、自分を肯定していく力になる。経験したことすべてを、音の説得力に変えていく。自己更新を続けるのは大変ですけれど、一歩づつ攻めていくことが、一番大事です。
田中 しんどいと思われることもあるんですか?
布袋 もちろんありますよ。
田中 それを聞いて安心しました(笑)
布袋 自分でも、「一体どこまで続けるのか」と思います。自己更新に明確なゴールはないですからね。自分を見極め、オーディエンスの反応で、自分を納得させるしかない。
僕は「うまくなりたい」というより「もっといい音を出したい」んです。そのためには自分のスタイルを磨いていかないといけないし、力が湧いてくるように、言葉に出していかないといけない。
デヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックなどのロックスターに憧れてこの道に入りましたが、ロックというのは、荒ぶれる魂の表現であって、その頃は50歳でまだロックをやっているとは、思いもしませんでした。
旅立ったロックスターもいれば、ローリング・ストーンズのように今も活躍しているロックスターもいます。そういうところまでロックの歴史が積み重なってくると、今はロックはひとつの、生きるエネルギーになった。生きるエネルギーというのは、年齢を重ねることで積み重なってきます。経験してきたことがみなぎっている。あとは使い方次第です。音楽活動40周年を超え、僕なりに深みを出して、エッジを求め続ける音楽家になりたいですし、これからも答えを求めず瞬発力で音楽を楽しんでいきたいと思っています。
本番のパフォーマンスを支える
「静」の時間の大切さ
田中 毎回、ライブのたびに生まれ変わっているような、エネルギーがすごいですね。普段はそのエネルギーは内に秘められているのですか?
布袋 普段は、いろいろなものを傍観しながら、自分の中にエネルギーをため込んでいますね。1カ月、ギターを持たないこともあります。でもステージに立つと、集中力が一気に高まり、溜め込んでいたものを表現する。ギターという道具と向き合って、ギターと語り合って、お互いを探り合う世界なので、終わりがないんです。
田中 練習しないと不安になりませんか?
布袋 ギタープレーヤーなので、常に瞬間的な音と向き合っているけれども、普段はまったくギターをさわらないんですよ。それで、リハーサルの2日だけで仕上げることもあります。
練習しないと筋肉が一気に落ちるのですが、逆に練習しすぎると、同じ音ばかりを追いかけてしまうようになる。ステージ上は、まっさらな新雪に踏み込むような気持ちでいたいので、今まで作ってきた表現をなぞるだけではなく、これからの自分を描いていきたい。だからあえて練習はしないんです。
「自分の弓を引いている時間」が大事なんですよ。皆さんが持っている布袋寅泰のイメージって、ライトニングというか、「動」のイメージが強いかと思うのですが、実は普段は「静」なんです。普段は「瞬間を待つ」ために時間を費やす。自分の中でエネルギーをふつふつとためているんでしょうね。
そうした時間を経て、1カ月ぶりにギターを持つと、実際、思いもしなかった新しいフレーズがぼんぼん生まれてくるんです。
田中 なるほど、練習する時間よりも、新しい表現が無意識に醸成されるのを待つ時間が大事なんですね。静の深さがあるので、深いところから一気に高みへと行ける。
布袋 時々、映像で自分のライブを見返すと、普段の自分とあまりにかけ離れているので自分とは思えなくて驚くことがあります(笑)。静と動でバランスを取っているのかもしれませんね。
ロンドンは静かな街なので、じっと何かを待っているのに向いています。コロナ禍で、ロンドンでのライブなどは中断せざるを得なかったのですが、音楽活動40周年を超えた自分を見つめるチャンスにもなり、日本のオーディエンスともしっかり向き合うことができたので、それもまた大きな力になりました。これからもさらに世界を広げていきたいと思っています。
田中 挑戦と変化、瞬発力とバランス、静と動のコントラスト――。お話からたくさんのエネルギーと生きるヒントをいただきました。ありがとうございました。