自分の前の「空白」を埋めながら
一歩一歩進んでいく

田中慶子氏手で表すPhoto:Yukari Morishita

田中 普段リラックスしているからこそ、本番で瞬発力が発揮できるんですね。

布袋 行き当たりばったりの「スリル」を味わいたいんでしょうね。

田中 それを、行き当たり「バッチリ」にしてしまう(笑)。以前、渡英に関して、「ロンドンという大海原に小舟で乗り出した」とおっしゃっていましたが、小舟の行き先は決めずに乗り出すということでしょうか。

布袋 その通りですね。家族との生活は別として、1人のアーティストとしては、自分はどこに向かっているのだろう、ロンドンで何をやってるんだろう、そう思うことは今もあります。大海原に小舟で1人ぽつんと浮かんでいて、言いようのない孤独や不安を感じることもあります。同時に、広さ、遠さ、何もなさを感じられる心地よさもあります。

 自分の前に常に「空白」があって、その空白を埋めるように一歩一歩、進む。その連続で今の場所まで進んできた気がします。

「グラミー賞を取る」とか、言葉にすることで力が湧くこともあるので、当然、明確な目標も持つことも大事と思いますが、一歩進んでみると、思いもかけないところへたどり着いて、次の扉が開く。

 知らない道に踏み出すときには不安もありますし、迷路に入ってしまうことだってあります。でも、その道をあとで振り返ると、踏み出す前は大冒険と思っていたけど、実はたかが一歩だった、臆することはなかったんだ、そう思うことも少なくない。むしろ、その一歩を踏み出さないほうが恐ろしいことだったと気づくこともあります。

人がバランスを崩したときに
その人のためにバランスを取れる人は強い

布袋寅泰氏腕を組むPhoto:Yukari Morishita

田中 人は「山登り型」と「川下り型」に分けられると思うんです。

 前者は、ビジョンを定めてそれに向かうことが原動力となる。後者は、どこにたどり着くかわからないけれど、岩は避けなければとか、こっちへ行くと楽しそうとか、流れに任せる。ビジョンがなくても実は心の中に原動力がある。

布袋 その喩(たと)えは深いですね。川下り型は、何百通りの出口があるかもしれないし、どんなに曲がりくねっても最後には1本の道に出るかもしれない。流れに委ねる心地よさもあるけれど、スリルもある。そういう意味でいうと、僕は「川下り型」ですね。

田中 私もなんです。最後は必ず、行き当たり「バッチリ」になるはず、と自分に言い聞かせて(笑)。いずれにせよ、一歩踏み出してみないと、その先へは進めないということですね。

布袋 人生というのはスリルですからね。プランって信じてないんです。プラン通りに行くことなんてないし、仮にそうなってもつまらないですよね。思い通りに行くことなんてない。だからバランスを取ろうとする。強い人というのは、戦うことが強いのではなく、自分や大切な人がバランスを崩したときに、バランスを取れる人、取ろうとする人だと思います。

田中 なるほど。そのためにはいろいろなものが見えていないと、バランスは取れないですものね。

布袋 そうですね。視野と経験、そしてセンスですよね。