大人も気づかない
子どもを傷つける会話

 心に侵入し、僕らを攻撃する他者たちはどこからやってくるのか?

 答えは過去のトラウマから。つまり、現実に他者から攻撃された記憶から。

 具体的に、不登校の子どものことを考えてみましょう。

 彼は学校に行けません。人が怖いからです。みんなが自分を馬鹿にしているし、学校に来ないほうがいいと思っている気がするから、教室に行くことを考えるだけで、頭が痛くなったり、お腹が痛くなったりしてしまいます。

 このとき、たとえば過去にいじめや虐待のような大きなトラウマがあって、直接的にそれが蘇っていることもあります。ただし、そんなにわかりやすくないことも多い。

 微細なトラウマ。たとえば家庭で、親自身も子どもを大事にしようとしているのだけど、そのせいで子どもの気持ちが無視されるということがよくあります。あるいは、ふと教師が漏らした苦笑の裏の意図が透けて見えて、自分はクラスにいないほうがいいんだと思う。

 コミュニケーションがうまくいかないことが積み重なります。その微細だけど、慢性的な傷つきが、心に深いクレーターをつくりあげ、そこに幽霊のようにして悪しき他者がウヨウヨ湧いてきます

 こういう微細な傷つきを書かせると天才的なのが、小説家の辻村深月さんです。2018年の本屋大賞に選ばれた『かがみの孤城』をはじめ、さまざまな作品で、ストレスを抱えた大人が無自覚に子どもを傷つけるプロセスが描かれています。

 孤立している人の話を聞くとは、過去に傷つきを負った痛ましい物語を聞くということなのです。

 ですから、不登校の子のカウンセリングを行うときには、同時に親や教師ともコンサルテーションを行う時間を定期的に持ちます。子どもを慢性的に傷つけているコミュニケーションを変えていく必要があるからです。

 大人たちも自分で気づいていないんですね。「え、そんなふうに子どもは受け取るんですか?」と第三者に言われて初めて気がつきます。

 傷つける言葉を言ってしまうのには、それなりの理由がある。親も教師も強いストレスの中にいるときに、ついつい傷つける言葉をぶつけてしまうものです。

 第三者がその苦労を聞くことができると、親も教師も、言葉がやわらかくなり、態度は軟化し、対応が変わってきます。