もちろん、それだけですぐに子どもが変化するわけではありません。だけど、少しずつ周囲が平和になっていき、現実の他者が必ずしも危険ではないという感触が出てくると、少しだけ学校に対する怖さがゆるまります。心の中の怖い他者が影をひそめていきます。

 保健室には登校できるようになったりするかもしれない。好きだった歴史の授業だけはクラスに入ることができるかもしれない。クラスに行ってみたら、みんな変な目で自分を見たりせず、案外怖くなかった、という体験ができるかもしれない。

 こういう積み重ねが心の回復だと思うんですね。心の中の悪しき他者が少しずつ現実の他者に置き換わっていきます。人間には怖いところもたしかにあるけど、それだけがすべてじゃありません。案外ひとは他人に無関心だし、けっこうやさしくしてくれる人もいるものです。

 そういう現実の色彩が心の絵具に混じっていくとき、僕らの傷つきは癒されていくのだと思います。

孤立ケアに役立つもの
住居、食事、そしてお金

 孤立をケアするためには、具体的に何が役に立つのでしょうか。当然のことながら、善きつながりを提供することが孤立対策の最たるものなのでしょうが、これがめちゃくちゃ難しい。

「これ、善きつながりですよ? つながりません?」と誘われても、怖いですよね。あるいは「私は悪い人ではありません、私たちの関係は善き関係です」なんて声をかけられたら、確実に詐欺師だと思います。

 つながりみたいに曖昧なものを直接提供するよりも、実はもっとソリッドなもの、具体的に役立つものを提供することがまずは孤立対策になります。

 たとえば、ホームレス支援における個室の提供は孤立対策になります。あるいは子ども食堂での食事の提供も孤立対策になります。

 そして何より、お金です。お金には孤立をやわらげるちからがある

 というのも、それらは安心を作ってくれるからです。安心って、結局のところ、予想外のことが起きないという感覚のことです。日々の生活で予想と同じことが起きる。変なことをだれもしてこない。

 たとえば、朝出かけるときに思い描いていることが職場では大体起こって、それで予想通り家に帰ってきて夕飯を食べる。こうやって日常がグルグル回る感覚が安心になります。

 いじめが深刻に心にダメージを与えるのはこれです。今日学校に行って、何が起きるか予想もつかない。これはきわめて恐ろしいことです。