お金が安心を与えてくれるのは、3カ月後も基本的にはこうやって過ごしているのだろうという感覚を与えてくれるからです。だから、お金はドカンと一度にもらうよりも、定期的に同じ額をもらうほうが健康にいいわけです。

 そうやって安心感を得て初めて、誰かとつながることが可能になります。不安なときに人から声をかけられたら警戒するけど、安心していたら友達になれるかもしれない。

 他者とつながるためには勇気が必要ですが、その勇気は安心からしか生まれてきません。

 孤立しているひとがいるならば、誰かが声をかけてあげればいい、と普通ならば思います。でも、そうじゃないんです。

 孤立しているときに声をかけられると、「こいつは俺を罠にかけようとしているんじゃないか」とか「私をだまそうとしているに違いない」と思ってしまいます。心の中に悪い他者がウヨウヨしているとき、現実にまわりにいる他者たちも悪いやつに見えてしまいます。

 ここが孤立支援の大変に難しいところです。

 支援者は味方になろうとして、話を聞こうとしているのに、敵だと思われてしまいます。しかも、支援者が孤立した人のことを傷つけてしまうことも実際しばしば起こります。だって、敵かもしれない人が接近してきたら怖いですし、触れてほしくないところに支援者がうっかり触れてしまうことだってある。

 すると、孤立したひとは思います。俺を傷つけてきた、やっぱりこいつは敵なんだ。

 孤立をやわらげるためには、善きつながりが必要です。でも、つながろうとすると、内面に吹き荒れている悪しき他者の声が、つながりを悪しきものに染め上げてしまう。

 悪しき他者を弱めるには善きつながりが必要なのだけど、それを提供しようとすると、やっぱり悪しき他者になってしまう。堂々巡りの悪循環です。ここに悲劇があるわけで、循環を逆回転させなくてはならない。

メンタルヘルスの最終奥義は
時間をかけて何度も会うこと

 どうしたらいいのか。きわめて凡庸な話なのですが、「時間をかける」しかありません。

 メンタルヘルスケアのアルファにしてオメガは、つまり初歩にして最終奥義は、時間をかけて何回も会うことです。心の変化は劇的な一瞬ではなく、見守られながら流れる地味な時間の蓄積で起こるものだからです。魔法のアドバイスや運命の出会いよりも、地道な関係性の積み重なりのほうが役に立つ。